今日はなまえが、宿泊学習とかいう学校行事から帰ってくる日だ。表には出さなかったが、正直なまえが出発したその日からずっとそわそわしていた。

 なまえは俺から見りゃあまだまだ幼く、体もそんなに頑丈なわけでもない。怪我や病気でもして帰ってくるんじゃねぇのか。そんな事があってみろ……教師共どころか学校ごとかっ消してやる――そんな物騒な事を考えながら、この日を待っていた。

 まぁ、一言もそんな事は口にしていないし、素振りも見せていないから、周りのカス共は気付いていないだろうがな。

「ボス。今日はなまえが帰ってくる日だね」
「……それが何だ」
「いや? ただ、ちょっとした情報が入ったものでね……次の給料を倍にしてくれるなら、教えてもいいよ」
「……チッ」
「………分かったよ、今回はタダでいいさ……なまえに、好きな人が出来たようだよ」
「…………そうか」
「意外に冷静なんだね、ボス」
「黙れ。……それもなまえの成長だ」
「へぇ」

 いかにも意外そうな表情を浮かべて去っていくマーモンに少々腹が立ったが、そんな事はどうでもいい。なまえに好きな男だと? ふざけるな。なまえにはまだ色恋は早過ぎる。……とか何とか考えている間に、なまえが帰ってきてしまった。

「ただいま、パパ!」
「………ああ」

 レヴィに護衛されながら帰ったなまえの頭を撫でてやり、レヴィは適当にあしらって下がらせた。そしてなまえに意を決して問う。

「なまえ……好きな奴が居ると聞いたが?」
「あ、うん。同じクラスなんだ!」
「……そうか」

 若干の親特有の切なさを感じながらも、笑みを作って髪を撫でてやる。

「……頑張れよ」
「ありがとう、パパ」

 にっこり笑って部屋へと戻っていく小さな後ろ姿を見つめながら、俺は無意識に拳を強く握っていた。


 娘の初恋


「なまえ、なまえ!」
「なぁに? ベル、マーモンまで」
「好きなやつに、今すぐ逃げろって言いな」
「え?」
「かっ消されるぜ」
「本人は冷静に振る舞ってるつもりだろうけどね」
「え、えっ?」


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