母校である並盛中へ行く用事があり、久々に校舎に足を踏み入れる。懐かしい教室や授業風景を見て、自分の中学時代を思い出した。しばらく歩いていくと、行き着いたのは応接室。……あの子が居るとしたらここかしらね、教室に素直に授業を受けに行くような子じゃないもの。そう考えながら、応接室のドアをそっと開けた。

「……誰?」
「やっぱりここだったの」
「……なまえ姉さん?」
「そうよ。もう…授業に出たらどうなの、恭弥。私授業参観で来たのに」

 そう、私がここへ来た用事というのは授業参観。せっかく恭弥を見に来たのに、教室に居ないんだもの。

「なまえ姉さん、お茶をどう?」
「お茶? あるの?」
「草壁が淹れてくれるから。座って」

 草壁くんという子にお茶を持ってくるよう言い付けると、恭弥は椅子に深く腰掛けた。……本当に並盛中のボスなのね。

「ねぇ、恭弥」
「……何?」
「学校に籠っていないで、家にも帰ってきなさいね」
「なまえ姉さんも今、家に居るの?」
「ええ。一人暮らしは大変だし、この前一旦戻ってきたの」
「……考えておくよ」
「ふふ、楽しみに待ってるわ」

 草壁くんがお茶を用意して戻ってきて、私と恭弥の前に置く。お礼を言うと、彼は深く丁寧なお辞儀をしてから、再び応接室を出ていった。

「草壁くんて優しいのね」
「……まあね」
「それに比べて、恭弥はずいぶん偉そうね?」

 少しばかり意地悪く言うと、軽く吊り上がった目に睨まれる。しかしすぐに目線を落として、罰が悪そうな顔をした。やっぱりこの子も、学校でどれだけ威張っていたってまだまだ子ども。睨まれても可愛く見えてしまうもの。

「……なまえ姉さん」
「なぁに?」
「ハンバーグ」
「えっ?」
「ハンバーグ、作ってよ」

 視線を合わせず呟く恭弥には、家に帰ってくる意志が少しでもあると見ていいのかしら。微笑んでこくりと頷くと、恭弥も少しだけ微笑んだ。



「そういえば、ここへ来る途中に茶髪の可愛い子に会ったわよ」
「可愛い子……?」
「沢田くんって言ってたかしら。恭弥の事聞いたら、ここを教えてくれたのよ」
「……沢田綱吉……あとで咬み殺す」
「え、何か言った?」
「いや。姉さん、授業参観が終わる時間だ。バイクで送るよ」
「ありがと。恭弥、免許持ってるの?」
「……」
「ちょっと、恭弥? まさか……」


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