「なまえ、なまえ!」
「はい、ビアンキ姉さん」
「少し出かけるわ。隼人をお願いね」
「はい! いってらっしゃい、姉さん」

 広い広い屋敷の中、ビアンキ姉さんに呼ばれて部屋を出ると、少し出かけるから隼人を見ていてほしいとのお願いだった。しっかりしなくっちゃ、お父様達も留守にしている今は、隼人の面倒を見てあげられるのは私だけなんだもの!

「隼人、隼人ー?」
「なまえ姉さん?」

 自室のドアの隙間から、隼人がひょこっと顔を出す。ビアンキ姉さんの事は酷く警戒するけれど、幸い私には懐いてくれている。呼んだのが私だという事を確認すると、ドアを大きく開いて中へ通してくれた。

「なまえ姉さん、何か…?」
「あ、何でもないの。ただ、ビアンキ姉さんが出かけたから、隼人を見ていてって頼まれたのよ」
「……ふーん」

 隼人はピアノへ向かい、その鍵盤に触れて適当な順に音を鳴らした。ビアンキ姉さんのクッキーなんて食べなくたって、隼人はピアノが上手なのに。何故お父様達は気付いてくれないのかしら。

「隼人。今日のおやつのクッキーは、私が作るわね」
「ほ、本当に!?」
「うん、ビアンキ姉さんいないし」
「よかった……」

 安心したように小さく微笑んだ隼人は、クッキーが出来るまで練習をして待っているからと、再びピアノに向かった。



 しばらく経って、作ったクッキーを持って部屋へ戻ると、すうすうと寝息を立てる隼人が居た。

「隼人寝ちゃった」
「ただいま。あら? 隼人は寝てしまったのね」
「ビアンキ姉さん! おかえりなさい」


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