なあアンタ。ちょっと聞いてくれるか。こいつを…どう思う? その、まあ…一応、俺の娘なんだ。ただ最近ちょっと、周りの友達と自分は違うって言い出してさ。どこが違うってんだ、可愛い子どもじゃねえかと思って見てたんだけどよ……やっぱりこいつは、しっかり俺の子どもらしい。女の子だってのにさ……本当に俺の血を引かせちまって、申し訳なく思う。

「お父さん」
「どうした、なまえ」
「スプーンおれた」
「……は? プラスチックのやつか?」
「ううん、これ」

 ステンレス製だった。俺は数秒フリーズした。なまえはまだ小学生だ。普通の小学生、しかも女児が、スプーンを折るなんて出来るだろうか。いや、無理だろう。間違いない、母親よりも俺の方の血を色濃く継いでしまっているらしい。
 そう確信したこの事件が、去年の出来事だ。

 そして、まさに今、

「悪い…新羅」
「ごめんなさい、岸谷せんせ……っく…」
「い、いや! なまえはまだ子どもなんだし別に怒ってないよ! でもさ、そろそろ力加減とか教えない? ね? 教えようよ静雄!」

 俺は、泣きじゃくるなまえと一緒に新羅に頭を下げている。今日はなまえを新羅に預けて遊んでもらっていたんだが、肩車をせがんでなまえが新羅の腕を掴んだときに、新羅もさすがになまえの体の異変に気付いたらしい。
 確実に静雄だよ、静雄の女版だよ! 掴まれたとこに跡クッキリだよ! と、なまえを寝かしつけてから泣き付かれた。

 ――次の日。

「なまえ、家帰るぞ。新羅に礼言え」
「ありがとう、せんせ……ごめんなさい」
「いいよいいよ、またおいで。今度はセルティが戻ってきたら、僕から呼ぶよ」

 新羅の家を出て、なまえの手を引いて歩く。柔い小さな手が、不安げに俺の手を握っている。やっぱり子どもながらに、新羅の事で落ち込んでいるのか。
 気持ちは痛いほどに分かるんだ。分かるけど、俺は頭悪ぃからさ。なまえが元気出るような父親らしい良い言葉とか、言えなくてごめんな。とりあえず頭を撫でてやる。力加減はまだ難しいが、ゆっくりと、出来る限り優しい力で。

「お父さん、」
「そのうち加減出来るようになるさ」
「か、げん?」
「俺も子どもの頃、なまえみたいにいっぱい悩んだからな」

 小さな手に、少しだけ力が篭る。ちょっとは元気にしてやれただろうか。……まあ、確かに力加減は教えるべき…だな。けど、こんなもんなら俺の子どもの頃に比べたら、可愛いモンだと思う。………多分。そう思いたい。


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