思えば最初から、悪い予感はしていた。

「今日からこのワゴンで一緒に行動する、なまえちゃんでーす」
「よろしくお願いします! アニメイトもとらのあなも、全力で回ります!」
「渡草さん、手出しちゃダメっすよ?」
「なんで俺……っつーかお前ら本当わかってんだろうな、このワゴン俺の」
「いいからいいから」
「よくねえ!」

 まさかここまで付いてくるとは。危ないから付いてくるなとあれほど言ったのに。狩沢や遊馬崎とすでに仲良くなっていた事は、完全に誤算だった。

「あれ? どしたのドタチン」
「大丈夫だ……ほっといてくれ」
「どしたの、お兄ちゃん」
「お兄ちゃん?」
「お兄ちゃん? 誰が?」
「門田さんが兄貴? 誰の」
「………はぁ」

 皆して顔を見合わせている。渡草はなまえと初対面だから当然だろうが、狩沢や遊馬崎は俺の妹だって事を知らずに、ただ意気投合したからワゴンに乗せていたのか?

「……妹のなまえだ」
「門田なまえです! お兄ちゃんがいつもお世話になってます!」
「なまえさんは…門田さんの妹さんだったんすね…? い、妹なんすね……?」
「落ち着いてゆまっち! なまえがリアルに妹ちゃんなら、あのオーラにも納得だよ!」
「オーラ? 私の?」
「なまえ! 聞くな、聞き流せ」
「え? お兄ちゃん、難しいよそれ」

 必死に聞き流そうと頑張るなまえの耳を、両手で塞いでやる。なまえの妹オーラとかいうヤツと有名な妹キャラとの比較だか何だかの話で、盛り上がっている狩沢達。うるせー暴れんな! と眉間にシワを寄せる渡草。

「おい、静かにしろって!」
「渡草さんはちょっと黙っててください!」
「今大切な話してんのよー!」

 だめだ。ああなった2人はもう止まらない。とりあえず放置しておいて、このまま渡草にワゴンを出させてなまえをアパートまで送ってやるか。どの道、遅くまで外を出歩かせるつもりはない。

「お兄ちゃん」
「なんだ」
「私、お兄ちゃん達が帰るまで帰らないからね!」
「……」

 そう言い張るなまえは、絶対に帰らないという意思表示のための何かを求めて辺りを見回すと、真っ先に目に入った狩沢の服の裾をキュッと掴んだ。……普通そういうダダこねるときは、座席のシートにしがみついたりするもんじゃないのか。

「かかかかか狩沢さんその裾…っ」
「ゆゆゆゆまっちどどどうしよう私お持ち帰りしそうだよよよドタチンの妹なのに!」
「あああわわわ!」
「うるせー!」

 ……まあ、皆がそれぞれ楽しいならいいんだけどよ。


[ back ]