ねえ、ちょっと君。この子、どう思う? いやぁ、俺の娘なんだけどさあ。なんか世間一般の子どもってやつから、だいぶ外れちゃってる気がしなくもない……というか、するんだけどさ。もちろん可愛いよ、愛しいし愛してる。だって俺の娘だし。可愛くないはずがない。間違ってもシズちゃんみたいな暴力男には嫁がせないって決めてるし。

「なまえ」
「何?」
「……」

 見た? 今の。振り向いたときの目。あの少しニヤっとした感じ。まるで自分以外の全ての人間を馬鹿にしてるみたいな目だったじゃん。え、俺にそっくり? ……やだなあ、何言ってるのさ。俺は人間を愛してるんだよ? 馬鹿になんかしてない。

「……さっきから何してんのさ」
「にんげんかんさつ」
「……窓の外をそんな双眼鏡で見てたら、ストーカーと思われるんじゃない?」
「お父さん、毎日やってるじゃない」
「………俺のは仕事なの」

 なまえが真剣に見ている先には、なまえと同じ小学校の制服の子と、その子の腕を引っ張るおじさん。無理に連れていこうとしているようにも、ダダをこねる娘を父親が叱っているようにも見える。まさか、なまえと同じクラスの子なのか? ……それより、双眼鏡で2人のよりリアルな表情を観察しているなまえの目には、どう映っているのか。

「ゆーかい、だねえ」
「……ふーん? 貸して」
「ぜったい、ゆーかい」

 なまえは誘拐と見たらしい。そういう些細な事件でも、立派な情報の一部だ。どんな事件に繋がっているか分からないから、本当に誘拐ならば俺の仕事にも関わる。
 双眼鏡を受け取って覗いてみると、おじさんの手には可愛い手提げ袋。というか双眼鏡で顔をよく見れば、おじさんと呼ぶにはまだ若い。これは多分、普通にこの子の親なのだろう。……ほら。泣き止んだ子どもが手を引かれていく。その先には、母親らしき女。

「残念、親子でしたー」
「………む」
「なまえはまだまだ勉強不足だねぇ」

 にやりと笑って双眼鏡を返し、むすっとしたなまえの頭を撫でながらコーヒーの続きを啜る。未だに助手としてうちに出入りしている波江が、俺の横に並んで俺だけに聞こえるくらいの小声で何か言った。まあ聞こえてはいたんだけれど、聞こえなかったふりをしておこうかと思う。


「なまえがあんな変な趣味を持った子どもに育ったのは、100%あなたが最低な人間なせいよ」


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