私のお母さんには、首がありません。私もないけれど。お母さんの首も私の首も、行方が分からない。まあ…ある場所はわかっているんだけれど、今の状態で充分幸せだと言える。そして私には、お兄ちゃんのような人もいる。……そのうち、お父さんと呼ぶべき人に…なるかも。いや、なるだろう。

 手にした小さなノートパソコンに文字を入力し、お母さんと画面上で会話をする。

「今日は新羅さん遅いの?」
「今回はちょっと遠出してるから、それなりに時間かかるかも」
「そっか…チャットは?」
「後で顔を出すけど、なまえも来る?」
「うん。あのチャット楽しい」

 カタカタと文字を入力する音だけが、部屋の中に響く。私達は喋らないから、新羅さんがいないととても静かだ。きっとお母さんは寂しいんだろうなと思う。そんな事は、一言も言わないけど。

「………なまえ」
「なに?」
「なまえは……その、父親…とか、やっぱりほしい…かな?」
「父親?」
「いや、ほら! 昼にやってたドラマでさ、やっぱり子どもは父親が好きだとか…なんとか…って」

 ああ、これはきっと新羅さんと何か進展があったんだ! そんな怖々と聞かなくても、答えなんか決まっているのに。なかなか返事を打ち込まない私を見て不安になったのか、「い…今のは忘れて!」と入力した画面を見せるお母さん。……まったく。

「私が、お母さんと新羅さんの仲を反対すると思ったの?」
「……」
「別に反対なんかしないよ、むしろ大賛成なんだから!」
「ほ、本当か!?」
「当たり前でしょ?」

 にっこり笑った顔文字も一緒に打ち込むと、お母さんから大量の影が伸びてきて、苦しいくらいに抱きしめられた。

 お母さんの幸せは、私の幸せなんだからね。……新羅さんがお父さんになる事は、本当はちょっとだけ不安なんだけれどね、色々と……。


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