「シズ兄!」
「……何だよ…俺今寝たばっかで…」
「これ、開けてー」

 昨日は、支払日からすでに1年も経ってるってのに頑なに金は払わないと言い張った奴を追っている途中、臨也を見つけて明け方まで追い回していたら、帰りが朝になった(ちなみに臨也は殺し損ねたが、金を払わない男は捕まえた)。
 そして俺はやっと眠りに就いたところを、妹に起こされている。眠すぎる目をこじ開けると、妹はお茶のペットボトルの蓋を開けてくれと言った。

「お前…ペットボトルくらい自分で……」
「このキャップかたいの、無理」

 なまえは幽より下に生まれた妹で、うちの末っ子だ。そしてこの3人兄妹の中で、人間離れした力を持つのは俺だけ。幽は普通で、なまえは人並みよりも力が弱い。それは今ももちろん変わらず。仕方なく起き上がり、ペットボトルの蓋を開けてやった。

「……ん」
「ありがと」
「なまえ……お前握力いくつだ」
「この前のスポーツテストで、10になった! 去年より3強くなった」
「………」

 10だと? 俺なんか、軽く握っただけで握力測定の機器が壊れて、測定不能だったというのに。コイツはこれで生きていけんのか? 重い物が持てなかったり、こうして瓶やペットボトルの蓋が開かなかったり、日常生活に支障ありまくりだろう。

 小さい頃から、俺か幽が常に付きっきりで様子を見てきた。特に、大掃除のとき。持ち上げる力もないくせに、重い物を動かそうとしてバランスを崩しては、転んでよく泣いていた。崩れてきた物を俺が支え、幽はなまえを宥めていた記憶がある。

「お前、大丈夫なのか」
「え?」
「学校とかさ、俺が見ててやれない間。あと、ちゃんとメシ食ってんのか」
「食べてるし、大丈夫だよ」
「……そっか」

 小さい頃から見ているだけに、何か俺……もしかして過保護か? 俺が過保護になってるとか幽に言ったら……相変わらず顔には出さないだろうが、笑うんだろうな。……試しに今度言ってみるか。

―――――

「なあ幽、俺はなまえに対して過保護らしい」
「………10年くらい前から知ってる」
「……そうか」
「たぶん、俺も過保護」
「幽も? そう思うのか」
「……会いたいし心配になるんだ、物凄く」
「いつでも来いよ」
「プリンでも買ってく」


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