「ああ、こら! 待ってよなまえ…!」
「きゃー!」
「ちょ、鬼ごっこじゃなくて! 止まっ…待ちなさい!」

 なまえはどうやら、僕が鬼ごっこの相手をしてくれていると思っているらしい。実際には、ここはスーパーマーケットの店内であり、店員さんやお客のおばさん達から睨まれているところである。

「なまえ、ここはお店なんだから! しー!」
「し!」
「そうそう、しー!」
「しまうま! ま!」
「ま? えっと……え? なまえ、しりとりじゃないよ! あれ? なまえ!?」

 しりとり作戦にまんまと嵌められ、なまえを見失う。不覚。瞬間移動したのかと疑うくらい、360度見回してもどこにもいない。まったく逃げ足が速くて困る。こんな短時間で、一体どこへ消えたんだろう。

「よう」

 後ろから低い声が聞こえて振り向くと、相手の方が背が高くて、少し視線を上げる。その低い声の持ち主は、門田さんだった。

「あ…こ、こんにちは!」
「あー……コイツはお前のとこの、だよな」
「え? あっ!」

 ちょっと頬を赤くした門田さんが、目をそらしながら背中を僕の方へ向けると、その大きな背中にぺったりとなまえがくっついていた。さらに後ろの方では、狩沢さん達が笑いを堪えているのが見える。

「なまえ、降りなさい」
「やだ!」
「……分かったよ。さっきダメって言ったチョコ、買うから」
「やったー!」

 あっさり機嫌を良くしたなまえは、門田さんの背中から器用にするすると降りてきた。僕はもちろん門田さん達に頭を深々と下げて、なまえはにこにこ笑いながら皆さんに手を振っていた。

「勝手に一人で歩いちゃだめだってば、迷子になるから」

 今度はしっかりとなまえをカートに乗せておく。これでいなくなる事はないだろう。なまえが欲しがっていたチョコも渋々かごに入れて、ご満悦な様子のなまえの視線の先を辿って見る。……嫌な予感がする。

「これもほしい!」
「……やっぱり」



 ――10分後。

「どっちかだよ、なまえ」
「えー!」
「どっちも買わないか、ひとつで我慢するかの、どっちかだよ」
「むう…」


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