「お兄ちゃん、マスク取ってよ」
「だめだ」

 お兄ちゃんはこの河川敷では、常に星型のマスクを被っている。だから名前が、“星”なんだけど。外したらちゃんと格好いいのに、本当にもったいないと思う。

「でも逆にもう、マスク取ったら私が見ても誰だか分からないかもしれないから……やっぱり外さないで」
「兄として物凄く悲しい事だぜ、ソレ」
「だって星マスク見慣れちゃったせいで、本体の顔がもうボンヤリとしか…」
「みなまで言うな妹よ!」

 あからさまに落ち込んで体育座りをするお兄ちゃんの脇腹を、手近な木の棒で突いていると、向こうから歩いてくる村長の姿を発見した。

「村長! こんにちは!」
「おー、なまえ。ちわー……あー、星さぁ。それ……その脇腹…なんでそんな棒で突かれてんの? 痛くない?」
「大丈夫だよ村長。お兄ちゃんだから」
「え、いや…まあ大丈夫ならいいや」

 じわじわとお兄ちゃんの脇腹にダメージを与えつつ、村長を上手く受け流し、うっすらと涙を浮かべた目で村長に助けを求めようとしたお兄ちゃんを制す。

「なまえ、そろそろ脇腹…やめない…?」
「じゃあマスク取って」
「だめだ」
「じゃあやめない」
「やめ、分かった! 肉まん…肉まん買うから! な、肉まん! しかも2つだぞ! ピザまんも!」

―――――

「あ、お兄ちゃんマスク取ってる」
「だってコンビニ行ってきたし」
「……なら、もうマスクなしでいいじゃん」
「だめだ」


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