「今日は機嫌が良いんだな、なまえ」

 後ろから声をかけてきたのは、お姉ちゃん。さくさくと草を踏んで歩み寄り、私の隣へ腰を下ろす。そのさらに後ろからは、リク兄が来る。お姉ちゃんの、恋人。

「分かるんですか? ニノさん」
「ああ、今日はなまえが楽しそうだ」

 私はあんまり表情に変化がない。それは少し自覚している。でもお姉ちゃんには、私のどこかの微妙な変化で、機嫌や具合の良し悪しが分かるらしい。

「……一体どこで見分けてるんです?」
「ここだ」
「あう」

 髪の一部を掴まれて、変なトーンの声が出る。リク兄は「なるほど、元気だとアホ毛が立つのか!」と納得していた。

「お姉ちゃん」
「なんだ、腹でも減ったか? なまえ」
「ううん。でも、クッキーが」
「クッキー?」
「ミサの…」
「もらい損ねたのか」
「……うん」

 お姉ちゃんが頭を撫でてくれる。そう、何か足りないなって思ってたんだ。今日はシスターのクッキーをもらい損ねたんだ。ちょっとだけ、立っていた毛の先が垂れ下がる。

「ほら」
「あ、クッキー」
「シスターがな、ひとつ余ったのを不思議がってたぞ。余ったからってもらったけど、なまえの分だったんだな」
「……ありがとう」
「あ、アホ毛立った!」

 私の髪を観察していたリク兄が叫ぶ。シスターにもお礼を言ってくるからと、私はその場を走って離れた。ちょっと離れた所で振り向くと、お姉ちゃんとリク兄は並んで座って笑っていた。今日はたくさん話しているみたい。良い雰囲気。……私、善い事した。

 お姉ちゃんが笑ってると、嬉しいな。


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