放課後。外は暗く、部活も終わったこの時間に、陵南高校の体育館内にはバスケットボールが弾む音が未だに響いていた。

「あと50本」

 部活後の自主練習に励んでいるのは、陵南のエースと言われる仙道彰。私の大好きな――。

「お兄ちゃん!」
「ん? なまえ。待ってたのか?」
「うん」
「あと20本で終わるから待ってろ」

 頷いて隣へ駆け寄り、シュートの練習を見学する。お兄ちゃんは見事に20本全てを決めて、部室で着替えてから戻ってきた。

「帰っててもよかったのに」
「今日はお兄ちゃんと帰りたかったの」
「…そっか」
「今日ね、晩ご飯カレーだって。朝お母さんに聞いた!」
「なら早く帰らなきゃな」
「うん」

 お兄ちゃんもお腹が空いているみたいで、少し早歩きになったけれど、歩幅が違いすぎて私は小走りになる。それに気付いたお兄ちゃんが、こちらを振り向いた。

「悪い、歩くの早かったか?」
「足短くてすみません……」
「何言ってんだよ、ほら」

 呆れたように笑って差し出された手の平に、私も自分の手を重ねる。大きくて少しごつごつしたその手は、強くて優しい。

「ちょっと走るか、なまえ」
「えっ」
「早くカレー食いたいだろ?」

 にっこり笑った次の瞬間、すごいスピードで手を引かれた。走っているという事に気付くまで、数秒かかった。



「お、お兄ちゃん…早っ……」
「家着いたしいいだろ?」
「え、もう?」
「さて…カレー食うかな」
「お兄ちゃん、待ってっ…!」


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