私のお兄ちゃんは、喧嘩も強くてかっこいいです。ちょっと怖いけど、それは見た目だけ。本当は、友達もちゃんと大切にする優しいお兄ちゃんなんです。

「お兄ちゃん、今日は学校行くの?」
「バーカ。俺は毎日行ってるよ」

 一緒に家を出て少しからかうように言うと、せっかく綺麗に整えていた髪をぐしゃぐしゃにされる。お兄ちゃんも何だかんだで2年生になり、私も同じ湘北高校に入学した1年生だ。……たまーに、お兄ちゃんの彼女に間違われるけど。

「なまえ、今日バイトか?」
「ううん。でも、暇だしバスケ部見に行こうかなって思ってる」
「ははっ…そっか。花道か?」
「違う。楓先輩」
「……お前も流川かよ、ったく」

 ぐりぐりと拳でこめかみを小突かれて、痛い!と大袈裟に反応する。お兄ちゃんは何事もなかったかのようにすたすたと歩いていってしまい、私は小走りで後を追った。

「そういやお前……流川の事、名字じゃなくて下の名前で呼ぶよな」
「うん。楓先輩は楓先輩だし」
「へー……そう」
「な、何? その返事! あとその顔!」
「別に?」

 意地悪く笑うお兄ちゃんを、必死に問い詰める。きっと今、私の顔は真っ赤に違いない。ニヤニヤしているこの顔が、すごく憎たらしく感じる。

「まあ、なまえが本気で流川を好きだって言うなら、俺は何も言わねーよ。別に悪い奴ってわけでもねーしな」
「なっ――す、好きって!」
「ただ…ライバルのハルコちゃんは手強いぜ? 可愛いしな」
「!」

 最後の最後になんて事を。晴子先輩は確かに美人だし、マネージャーだし……ちょっと気にしてるのに!
 改めて突きつけられた現実に軽く落ち込むと、不意に立ち止まったお兄ちゃんがこちらを振り向いて言った。

「……ま、お前も可愛いと思うよ」
「えっ!」
「少しは、な」
「す…少し……」
「はは」

 またすぐ向き直って、お兄ちゃんは先に歩いて行っちゃったけれど。お兄ちゃんなりに励ましてくれたって事だけは、ちゃんと伝わってきたよ。


 本当は一番大好きだよ
 不器用なりに優しいお兄ちゃん


「あの、楓先輩! ボール……」
「サンキュ。なまえ」
「え、名前……どうして」
「……あれだけ練習見に来てりゃ、名前くらい覚える」
「おい、ルカワ! 貴様、洋平の妹のなまえに何してる!」
「うるせー。集中しろ、どあほう」

「……良かったな、なまえ」
「お兄ちゃん! …大好き!」
「はいはい、知ってるよ」


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