とある茶屋。ワシはある人物と待ち合わせをしているんじゃが、これがなかなか来ない。忘れとるんじゃなかろうか。少しばかり焦りながら待っていると、小さな女が笠を被ってこちらへ歩いてきた。ワシの姿を確認すると、小走りになる。
 ……やっと来たぜよ。

「なまえ! 久し振りじゃー、アッハッハ!」
「馬鹿、せっかく笠被って静かに来たのに。もう意味ないじゃないの」
「でもちょっと見ん間に、なんだか背が縮ん…」
「なぁに? 辰馬」
「いや……何でもないぜよ」

 慌てて訂正するも、実の姉であるなまえの顔はじとりとこっちを睨んでいる。ああ、それより早く話をせんと。

「なまえ、早速話なんじゃが…」
「何よ。お金なら貸せないわよ?」
「いや、あー…しばらくなまえの家にワシを置いてくれんがか?」
「は?」
「……まーた小型船ば墜落させてしもうた。いやぁ…迎えも頼んだんじゃが、陸奥は陸奥で忙しいとかで、迎えが遅くなるきに」
「……はぁ」

 なまえは「そんな事だろうと思った」と溜息を漏らし、ワシの頬を思い切り抓る。

「アッハッハ……い、痛っ…」
「ほら。さっさと行くわよ」
「え?」
「来ないならいいのよ、自力で宿でも探すのね」

 そう言い放って先を歩くなまえの後を、慌てて追う。一度は嫌だと言いながらも、最終的には助けてくれる。これだから、いくつになってもこの姉にだけは頼ってしまうぜよ。



「アッハッハ、狭い部屋じゃの」
「嫌なら帰んなさい」
「……冗談じゃ、泊まらせてくれ…」
「まったく…」


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