「ちょっとついてこい」
「えっ?」
部活を少し抜け出して牧さんに連れられていった先には、市の体育館。中では女子バスケ部の練習試合が行われていた。シュート練習の途中だった俺は、何故ここへ連れてこられたのか分からずに、早く学校の体育館へ戻りたくてそわそわしていた。
「あの……牧さん?」
「ほら。よく見ておかなくていいのか?」
牧さんが指さす先を見ると、まさに今3Pシュートを決めた瞬間のなまえがいた。我が姉ながら、気持ち良くシュート決めてくるもんだな。
「前半終わったみたいだな。行ってきたらどうだ?」
「え! そんな、いいっスよ!」
「あれ、信長」
タオルで汗を拭きながら、なまえがこっちへ向かってくる。見つかっちまった…と何となく慌てて隣を見ると、牧さんはすでに居なかった。なまえと同じ歳の先輩達は、くすくすと笑いながらこっちを見ている。
牧さんは、なまえの試合を見る事で何か技術的なものを盗ませるつもりだったんだろうけれど……正直恥ずかしい。
「来てくれたのね、応援」
「……ま、まぁ、牧さんが言うから」
「で、信長の方はどうなの? 練習」
「……絶好、調?」
「なんで疑問形なのよ」
おかしそうに笑って俺を小突くなまえに、少し恥ずかしくなって頬を掻く。
「なまえ」
「また呼び捨てする…」
「……次の試合、見に来てくれ」
「こっちの試合が被らなかったらね」
「ああ」
後半開始のアナウンスが響き、なまえはタオルを置いてコートへ戻っていった。
海南女子バスケ部、4番
……後から聞いたが、4番コンビの牧さんとなまえが付き合っているらしい。
「え……? まさか、牧さんが俺の兄貴に…とか、ない…よな?」
「……黙って走れ。スタメンから外すぞ」
「! す、すみません」
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