「お兄ちゃん!」

 バタァン!と激しい音を立てて生徒会室へ入ってきたのは、俺の妹。……特にアイツの気に障るような事をした覚えはないんだが、登場時の勢いからして、かなり怒っているんだろうな。

「なんだ、なまえ」
「……お兄ちゃん、私が家の廊下で転んでお尻に青痣が出来ちゃった事、榛葉先輩に喋ったでしょ」

 ……確かに喋っちまった気がする。今朝は俺とミチルと椿だけだったし、椿は作業中はずっと黙ったまんまだし。あまりにも話のネタがないもんだから、つい。そういやなまえから口止めされてたような気が、しないでもない。

「悪かった、話のネタがなくてな」
「よりによって榛葉先輩に……しかも、廊下で声かけられたんだから!」

『あれ、なまえちゃん? おはよ。あ…そうそう、安形から聞いたよ。転んでお尻に青痣出来ちゃったんだって? 朝から大変だったね、痛かったでしょ』

「ああ、恥ずかしかった…! 女の先輩達からも、くすくす笑われちゃったし」
「かっかっか」
「笑い事じゃないったら! もう学校の廊下歩けない……」
「悪かったって」

 この世の終わりみたいな顔で言うもんだから、素直に再び謝っておく。それにしてもミチルも、なまえに直接言うとは思わなかった……まったく。

「あれ? なまえちゃんと安形、2人っきり?」
「ああ。今なまえから怒られてたところだ」
「へぇ……何したんだか知らないけど、いつもにこにこしてるなまえちゃんが怒るなんて。一体何したんだい? 安形」
「……!」

 なまえが「もう何も言わないで!」と言わんばかりに俺を睨みつけてくるし、一応内緒にしとくか。

「ん、秘密だ。かっかっか!」
「……ふーん?」
「なっ、何でもないんで!」

 怪訝そうにするミチルに、顔を真っ赤にして必死にぶんぶんと頭と手を振るなまえを見て、面白くなっちまったのは黙っておこう。


 お兄ちゃんのお喋り!


「なまえちゃん、安形から聞いたよ。今日は卵焼き焦がしたんだって?」
「……お兄ちゃんのバカ」

(ミチルの方こそなまえを気にかけて声かけてるんだって事には、なまえ自身は気付いてないみたいだな)


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