「お兄ちゃんゴメンよけて!」
「あぅおっ!」

 今俺のケツに思いっきりテニスボールを当ててきたのは、妹のなまえだ。なんでも近々大会があるらしく、テニスの壁打ちをしてたんだが……何故俺のケツ目掛けて飛んできたんだこのボールは。何故なんだ。

「痛い! ケツが!」
「ごめん、お兄ちゃん! 変な方向に跳ね返っちゃって……振り向いたら、ちょうどお兄ちゃんが家から出てきて」
「……見ろコレ、服の上から見ても分かるほどに腫れてるだろうが!」

 ほら! となまえの方に尻を向けたら、やめてよ! とラケットで小突かれた。コイツ、大切なお兄様のケツになんて事を……コンビニに行こうとしていた事を思い出して小走りで向かおうとするが、なんだかなまえの調子が悪いらしくて。

「あ、また…!」
「いって!」

 再び俺に当たった。今度はふくらはぎに。何気に痛い箇所に当たったので無言で蹲っていると、なまえは切なそうな顔で下を向いた。

「どうした?」
「だって私、先輩とダブルス組むのに。こんな調子じゃ…」
「……そっか。そういう理由なら仕方ねぇな! ほれ!」

 お兄ちゃん愛用ゴーグルを手渡してやる。俺以外にも効くかどうかは知らんけどな。これで集中力が上がれば、なまえも安心すんだろ。

「ありがと、お兄ちゃん」
「おう。じゃあ俺コンビニ行ってくる」

 そう行って振り返った直後、うちのガラスが割れるような嫌な音がしたのは、また別の話だ。



「効かないじゃない!」
「いや、効くかなーって…」
「お母さんに怒られた!」
「あー、えっと、ご…ごめんなさい……」


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