ここは英国、ファントムハイヴ家の屋敷。この屋敷に住まう小さな小さな主は、たった今お目覚めのようだ。

「……ん、なまえねえさん…?」
「お目覚めですか、坊ちゃん。お嬢様でしたら、もうとっくにお目覚めですよ」

 この小さな主の名はシエル、そして執事の名はセバスチャン。シエルが口にしたなまえというのは、彼のたった1人の血が繋がった姉の事である。

「入ってもいいかしら、シエル?」
「なまえねえさん…?」
「そうよ」
「どうぞ、お嬢様」

 セバスチャンの答えを聞いてなまえが中へ入ると、静かに紅茶を啜るシエルがこちらを見ていた。我が弟ながら、いつ見ても可愛いと思う。

「シエル、おはよう」
「おはよう。なまえねえさん」
「まだ目が覚めきっていないのかしら? ずいぶん眠そうな声ね」
「お嬢様、お紅茶は?」
「ええ。お願い」
「かしこまりました」

 セバスチャンから紅茶のカップを受け取り、一口含む。やっぱり美味しい。

「美味しいわ、セバスチャン」
「もったいないお言葉。恐縮です」
「ところでシエル。今日は久々にお出かけしましょう?」
「……お出かけ、なまえねえさんと?」
「そうよ、空気の綺麗な所へ。森林浴なんてどうかしら」
「いく…いきたい」
「って言ってるけど。セバスチャン? 執事であるあなたの意見も聞かなくちゃね」

 そう言って振り向くと、彼は少し困ったような顔で笑っていた。

「本日は予定も特にございませんし、お勉強でもしていただくつもりでしたが……お嬢様からのお誘いでは、仕方ありませんね」
「じゃあ、なまえねえさんと森へいってもいいのか?」
「ええ。早速ご用意いたします」
「よかったわ。昼食は外で食べましょうか、シエル」

 嬉しそうに少し頬を染めたシエルが、こくりと頷いた。



「シエル。この辺は少し足場が悪いみたい、手を繋ぎましょうか」
「……んん」
「昨日雨だったせいかしらね?」
「そうかもしれないな」
「坊ちゃん、お嬢様。足元にお気をつけて」


[ back ]