「なまえねえちゃんっ! おかえり!」

 私が帰るなり抱きついてきたのは、可愛い弟の那由太。まだ危なっかしいぽてぽてした歩き方は、彼の幼さを表している。おやつを食べている途中だったのか、口のまわりにはチョコレート。抱き上げてやり、ティッシュを取り出して口元を拭いてやった。

「ただいま、那由太。口のまわりがチョコだらけよ?」
「え…わっ! ホントだ!」

 チョコレートが付いたティッシュを見せると、那由太は恥ずかしそうに両手で口元を隠して笑った。

「今日のおやつは何だったの?」
「ガトーショコラ、って言われた!」
「そう、いいわね」
「なまえねえちゃんの分もあるってさ!」
「それは楽しみだわ」

 にこにこしながら私の手を引いて歩く那由太に、頬がゆるゆると緩んでしまう。余程私にガトーショコラを食べさせたいんだろう。

「ほらっ! なまえねえちゃん早くっ!」
「待って。部屋に荷物を置いてこなくちゃ」
「お嬢様、お荷物は私がお部屋へお持ちいたします。坊ちゃんは、お嬢様のお帰りを心待ちにしていらっしゃいましたから」
「じゃあ、荷物はお願いね」
「はい」

 メイドに荷物を預け、早く早くと腕を引く那由太についていく。この子はまだ小さいし、私が帰るまでのほんの数時間でも、寂しい思いをしていたんだろう。

「はいっ、なまえねえちゃんの分!」
「ありがと、那由太」
「へへ! おいしいだろっ」
「うん、おいしい」

 そう答えると、那由太は笑顔でガトーショコラのおかわりを食べ始めた。

「なまえねえちゃん、おいしい?」
「ん、おいしいわよ」
「次はなまえねえちゃんのケーキがたべたい!」
「じゃあ、明日作りましょうね」
「やった! なまえねえちゃん大好き!」


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