「お姉ちゃーん?」
「ま……待ってくれ、なまえ! 私はこういったものは着慣れていなくて…!」
「私だって着慣れてはいないよ。年に何回も着るものじゃないもの、浴衣なんて」

 今日はお姉ちゃんと一緒に夏祭り。浴衣も着たし、花火も上がるっていうし、すごく楽しみ。なのにお姉ちゃんは、まだ帯が上手く結べていない。だんだん外も騒がしくなってきたし、早くしないとお祭りが始まっちゃう。階段を駆け上がり、お姉ちゃんの部屋へ入ると、帯を結ぶのを手伝った。

「悪いな、なまえ」
「ううん。早く行こ!」
「……何をニコニコしてるんだ?」
「今日は拓海さんに会えるかなぁ…」
「……なまえは碓氷に懐いているからな…」

 お姉ちゃんはぼそっと呟き、額に手を当てて息を吐いた。どうしてお姉ちゃんは、そんなに拓海さんに会いたくないのかしら。

「優しいのになぁ……」
「ほ、ほら! 祭が始まってしまうぞ!」

 ごまかすように叫んだお姉ちゃんは私の手を引いて、浴衣に下駄だというのに走り出した。

「お姉ちゃん、待って! 足痛い…!」
「ああ…! わ、悪い!」
「あれ? 鮎沢となまえちゃん」
「わあ、拓海さん!」
「なっ……碓氷…! どこから沸いて出た!」
「沸いて出たなんて酷いなー……あ、美咲ちゃんもなまえちゃんも浴衣? 可愛いねー」
「美咲ちゃんと呼ぶな!」

(結局こうして拓海さんに見つかっちゃうんだけど)


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