「お兄ちゃん!」
「あれ、なまえ?」

 今日は日曜日。なまえは部活がないから、学校には居ないはずなのだけれど…。

「何かあったかい? 今日なまえは部活が無かったはずじゃ…」
「はい、お兄ちゃん! お弁当!」
「え、」

 差し出された包みを見て自分のバッグの中を漁り、朝家を出るときに玄関に忘れてきたのだと気付く。申し訳なく思いながら包みを受け取った。

「ありがとう、なまえ。助かった」
「うん! あの…それでね」
「うん?」
「に…仁王先輩、いる?」
「………え」

 仁王……?

「ん、今呼ばれたか?」
「あ! 仁王先輩!」
「おお…なまえか! 今日も可愛ええのぅ」
「そっ、そんな」
「なまえは謙遜しすぎじゃ…あ」
「?」

 さすがは仁王、俺の苛つきを即座に感じ取ったようだ。わざとらしく「さて、グラウンドあと5周!」と言いながらそそくさと逃げていった。

「仁王先輩行っちゃった…」
「なまえ、いつの間に仁王と知り合ったんだい?」
「えっと…この前の練習試合の時に、仁王先輩から声かけてくれたの! 私、前から憧れていたから嬉しかったの」

 頬を赤らめて話すなまえを見て、不安が高まる。いつかはこんな日が来ると思っていたけれど、よりにもよって仁王に大切な妹を取られるかもしれない。兄である俺よりも仁王を選んだらどうしよう。…何より仁王をどうしてやろうか。

「なまえ、もし本気で仁王を好きなら応援するよ…でも」

 ――お前が傷ついた時には、俺は仁王を一生許せなくなるかもしれない。

 そう低く呟いて、なまえを優しく抱き寄せた。なまえは笑顔で俺の手を握って言う。

「ありがと、お兄ちゃん。私、頑張ってみるね!
「…………」

 …この日から仁王には、幸村の満面の笑みが始終向けられていたという。


 だって心配じゃないか。(よりによって仁王だなんて)


「なんであんなに見られてんだよぃ?」
「…部長の宝物に手を出したから、かのぅ」
「宝物? って何だよぃ」
「お姫様とでも言っとくぜよ」
「……は??」


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