ちょっと待って。ここ、私の部屋よね。間違いなく私の部屋よね? 一度廊下に出て再確認。ドアに提げてあるネームプレートの名前――なまえ。うん、間違いない。ここは私の部屋だわ。

「なら……これは何?」

 呆然と見下ろした先には、私のお気に入りの枕に制服のまま俯せになって寝ている弟の元希。今日は帰ったら真っ先にベッドにダイブする予定だったのに……仕方なく、俯せになっている弟の体を強めに揺する。

「ちょっと元希、起きなさい」
「………もうちょい右…」
「右?」
「あー、そこそこ……もうちょい強めに押して」
「……マッサージじゃありません!」
「ぐえっ」

 背中を揺すると図々しくもマッサージを所望してきたので、思い切り背骨の真上をべちんと叩く。情けない声を上げてゲホゲホと咳込みながら起き上がる元希の頬を、さらに思い切り抓り上げた。

「いって!」
「ばか、人のベッドで何してんのよ」
「は? ああ、寝てた? 俺……」

 わしわしと頭を掻きながら、間の抜けた欠伸をして目を擦る。5歳くらいの幼稚園児でも相手にしているかのように思えてくる仕草を見て、だんだん怒る気も失せてしまった。

「部屋、間違った…」
「元希の部屋は向かい側でしょう? 早く自分の部屋に行って、ちゃんと自分のベッドで寝なさい。あと着替える!」
「んー」

 ベッドから起き上がり、床に投げ出してあったバッグを持ち上げたかと思えば、そのままクッションへと倒れ込んで再び寝息を立て始める。抱えられたバッグからは、泥だらけのユニフォームがはみ出していて。

「……洗濯が大変だって、母さんが困るわけだわ」

 ぎゅうぎゅう詰めのバッグの中にユニフォームをなんとか押し込み、すうすうと気持ちよさそうに眠る元希の体には、毛布を掛けてやった。

「お疲れ、元希」

 ベッドへダイブするのは諦めて、録画していたドラマを見るためにリビングへ行く事にしよう。そう決めた私は、元希を起こさないように部屋の電気を消して、そっとドアを閉めた。


―――――


「あ? 真っ暗……姉ちゃんも居ねーし………あれ、床? 毛布? 俺まだ制服? ここ、俺の部屋じゃねーな…」

 ………なんかごめん、姉ちゃん。


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