俺の娘はなまえって名前で、まだ小せぇしめちゃくちゃ元気だ。加減も知らねえから、ちょっと怒ってポカポカ叩き出したりすると大変だしな。菫にそれを話したら、「やだ、茜に似たんじゃないの?」って言われたけどな。どういう意味だよ。

「なまえ、お前もバスケやんのか?」
「バス、ケ?」
「お前が抱いてるそのボールを使うんだよ。スポーツだ、スポーツ! 貸してみろ」

 なまえからボールを受け取り、ドリブルをしながら軽く走って、空へとボールを放った。本当はリングにシュートするんだと説明して、小さな頭を撫でてやる。

「うちの庭にはリング作れなかったけどな。金ねえし。……いや、これからでも億万長者になってリング作るけどな!」

 ぽかんとした表情で俺を見つめるなまえに、再びボールを持たせてやる。

「億万長者になってリング作るまで待ってろ! なまえ!」
「……ほんとにつくれるの?」
「だあほっ、俺がその気になりゃあリングどころか練習用の体育館のひとつやふたつ、来年あたりにパパッと――」
「無理だろ」

 疑い始めたなまえに必死に説明していると、俺の言葉を遮って声が聞こえてきた。すると、声がした方向から1人の男が現れる。

「てめ、柊……」
「あ、お兄ちゃん」
「おお。なまえもバスケやんのか?」

 図々しく俺の娘の頭を撫でたのは紛れもなく、柊だ。さらにコイツは、何故かなまえの兄ちゃん的存在になっている。なんとなく苛々しながら柊を見ていると、ふと柊が持っていた箱に気付いた。

「何だよ、それ」
「ん? ああ、ケーキ」
「……てめー少しはいいやつじゃねえか」
「バーカ。なまえにだ」
「わーい! ケーキ!」
「………」

 柊を一瞬いいやつだと思った俺が馬鹿だった。……むしろちょっと嫌いになった。しかしなまえからの柊に対する株は、うなぎ登りの結果となる。まあ、なんだかんだ俺の分もケーキ買ってくれてたけど。



「……なあ、俺の小せえんだけど」
「文句あるならそれもなまえにやる」
「食わねえとは言ってねえ!」
「……お前の父親ガキだな、なまえ」
「うん、ちょっとね」


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