俺の弟は非常に未熟な執事見習いだ。しかし妹の方は、妹だからという贔屓目ではなく、まあまあ出来が良いと見ている。妹は執事ではなくメイド見習いであり、実際に仕事の手伝いをさせてもいる。お仕えしているメイ様も、近くに同性の者がついていると落ち着くのか、妹にとても懐いていた。

 今日はメイ様から「地元の学校の頃からの友達と久し振りに遊ぶから、ついてこないで!」と言われているので、遠巻きに護衛しつつ妹の教育をする事にする。

「剣人置いてきてよかったのかな」
「あれが来るとかえって邪魔だ。騒いでメイ様に気付かれる」
「ああ、そっか」
「それよりなまえ、今日の朝食。細かく見ればかなりの減点だ」
「……うう、はい…」
「でも、メイ様のお話し相手はお前が一番上手いな。なまえ」

 なまえの身長は俺よりだいぶ低く、俺の胸下あたりに頭がある。その髪を撫でてやると、白い頬を少し染めて喜んだ。剣人もこれくらい素直な反応をするならば、俺ももっと優しく指導してやっていただろうに。

「やっぱりメイ様は、なまえといる方が楽しいのか…」
「え?」
「なまえとは本当に楽しそうに笑って話すからな、メイ様は」
「お兄ちゃん」
「ん?」
「メイ様は、お兄ちゃんと話すの緊張しちゃうんだってさ」
「……?」
「なんでだろうね?」

 くすくすと笑いながら俺より1歩前へ踏み出し、どこか楽しそうに歩き出す。きっとなまえは何か知っているのだ、メイ様のお気持ちを。きっと俺にそれを教える気はないんだろうし、俺も聞く気はない。

 必ず、メイ様の口から聞いてみせる。


―――――


「あ。お兄ちゃん、メイ様絡まれてる」
「何!? どこだ!」
「あそこ」
「……」
「剣人に絡まれてる。剣人ついてきてたんだね」
「……」


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