コンコンという控えめなノック音に気付き、ドアを開ける。
 ……嫌な予感がする。

「……なまえ…何や?」
「お兄ちゃん、宿題教えて?」
「…嫌や。ご自分でどうぞ」
「そんな、お兄ちゃん!」

 ドアを閉めようとすると、必死にドアの間に体を入り込ませて頼んでくる。どうやらずいぶん焦っているらしい。また提出期限過ぎて怒られたんやろな。でも、ここで甘やかすのもアカンやろ。

「なぁ、なまえ。自分でやらな自分の力にならへん。やってダメやったら教えたるから……な?」
「すでにもう分かんない」
「そこ即答なん?」

 仕方なく部屋へ入れてやり、教科書を広げて中を見ると、自分も過去に悩まされた問題が並んでいた。確かにこれはなまえには無理やな。基礎問題から丁寧にひとつずつ教えてやる。
 しかしなまえは渋い顔だった。これは…理解できてへんのにとりあえず頷いてるんやろな。絶対そうや。

「なまえ…"本当に"分かったんやろな?ほな、これ解いてみ」
「すみません、無理です」
「また即答やん」

 呆れて言うと、ごめんなさい…とか細い声でなまえが俯いた。責めるような声色にならないようゆっくり息を吐いて落ち着き、なまえの頭に手を置く。

「もう1回だけ教えたる」
「!」
「…それでダメやったら俺はお手上げや。あとは先生に聞くんやで」
「うん!」

 元気良く頷くなまえを見て、俺もつくづく妹には甘いな…と少し反省するのだった。



「(これは朝までかかるやろか…あかん、俺も宿題あるわ…)」
「お兄ちゃん、あと…こっちも」
「ええよ。(ああ、また引き受けてもた)」

 …妹には、とことん甘い。


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