「なまえ? 何だ、その荷物」
「え…えへへ…」
「……はぁ」

 両親との些細な口喧嘩の後しばらく部屋へ篭ったかと思ったら、こそこそと出てきた妹は大荷物を抱えていた。

「お前その荷物…家出か」
「……はい」
「見たいドラマが見れなかったくらいで家出すんのか?」
「今日のはスペシャル版だったの!」
「………そうかよ」

 どうも今回は退きそうにないなまえの剣幕に、仕方なく納得する。
 とりあえず兄として、このまま家出させてしまうのはまずいだろうと、自分の部屋へ入らせた。なまえは渋々部屋へ入ると、リビングのものより小さめな俺のテレビの前に座り込み、床に平積みしていた漫画を読み始めた。

「ほら」
「なに? ………」

 声を掛けてテレビの方を見るよう促すと、顔を上げて絶句するなまえ。視線の先には確かに、見逃してしまったはずのドラマ。

「な、なんで?」
「俺もこのドラマ見てたしな。部屋で見たくて録っといたんだよ」
「お兄ちゃん……!」
「見ないなら消す」
「あ! 待って、見る!」

 お兄ちゃん大好き!とか何とか言いながら隣で嬉しそうにドラマを見始めたので、どうやら家出は食い止めることが出来たらしい。



「お兄ちゃん、ありがとう」
「ああ」
「好き!」
「おう」
「次に家出する時も、絶対お兄ちゃんの部屋に来るね!」
「それは家出って言わねぇよ」


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