「お兄ちゃん、ただいま!」
「ああ」

 俺の妹のなまえは、今日は病院に行っていた。なまえも杏に習いながらテニスを始めたんだが、どうも手首を必要以上に捻って打ってしまう癖があるようで。少しばかり手首を痛めて病院へ。

「なまえ…どうしたんだ、その包帯は」
「あ、これは――」
「そんなに悪かったのか?」
「ううん、先生が大袈裟に包帯巻いちゃっただけよ。平気!」
「…そうか」

 細い腕には包帯が巻かれていて、少し腫れているようで痛そうだ。

 せめて腫れが引くまでは、テニスはしない事――病院の先生との約束は、テニスに慣れてやっと面白くなってきたなまえにはつらいものだった。そんなに何週間もかかるわけではないようだが、数日は動かせないだろう。なまえは俯き、寂しそうにしていた。

「………よし、分かった」
「え?」
「杏! 杏、ちょっと来てくれ」
「はーい! あ、なまえ。おかえり…って、どうしたのよその包帯!」
「あ、お姉ちゃん…」
「杏。その事で話がある」

 涙目でなまえを抱きしめる杏を落ち着かせ、2人一緒に椅子へ座らせる。その向かい側の椅子に、自分も腰を下ろした。

「いいか、杏。なまえは手首が腫れていて、少しの間テニスが出来ない」
「え!?」
「だから、せめてなまえにテニスをしてもいいと許可が出るまでは、俺達もテニスを我慢しよう」
「え…そんな、だめだよ! お兄ちゃんには、次の土曜日に練習試合が…!」
「もちろん試合はするし、部活にも出る。だが、それ以外では一切しない」
「お兄ちゃ…」
「分かったわ、私も一旦やめる。なまえと一緒にまた始める!」
「でも、お姉ちゃんだって」
「したいよ、テニス。けど、なまえもテニスしたいじゃない。大切な妹が我慢してるのに、私だけ楽しんだり出来ないから」
「…そういう事だ。なまえ」
「――ありがとう」

 肩を軽く叩いてやると、なまえは柔らかく微笑んだ。


 橘兄妹は、一心同体。


「…という事だ」
「私もお兄ちゃんも、なまえの腕が治るまでは部活以外でテニスをしないから」
「そんな、橘さん…杏ちゃんまで?」
「まあ、なまえの怪我なら仕方ないけど。こんな時くらいなまえの心配したらどうなんだよ…杏ちゃん杏ちゃんて、まったく…」
「………」
「ご、ごめんなさい神尾先輩!」
「あ…その、ごめん。なまえちゃん」
「もう! 私の可愛い妹に気を遣わせないで!」
「ご、ごめん杏ちゃん!」


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