「若ー?」

 部屋の前から姉さんの声がして、夕飯の時間になった事に気付く。部屋から顔を出し、すぐ行くと告げた後、解きかけの問題集を閉じた。

「姉さん、今日は…ああ、煮物か」
「あれ? 若は煮物嫌いだっけ?」
「いや。姉さんの煮物は美味しいし、俺は好きです」
「ふふ、ありがと」

 最近料理の腕を上げた姉さんは、色々なジャンルの料理をどんどん覚えて、今では俺の夜食を作ってくれたりもする。朝練終わったら食べなさい、なんて早弁用の小さな弁当も持たせてくれる。絶対にうちのテニス部の部員(特に先輩達)なんかには言えない事だが、俺にとっては本当に自慢の姉だ。

「ところで若」
「はい?」
「若は、次の試合のレギュラーには入れそうなのかしら?」
「…何故です? 突然…」

 俺が自らレギュラー入りした事を告げる事はあっても、姉さんの方から聞かれたのは、これが初めてだった。

「うん。若がレギュラーメンバーに入れるようなら、次の試合には休みを取って応援に行こうかなって」
「え…」
「ほら。私もずっと忙しくて、なかなか試合を観に行ったりは出来なかったじゃない? 一番忙しい時期は過ぎたし、今度は休みも取れるだろうから」
「……レギュラーになれるかは、まだ分かりません。けど、入ってみせる。必ず」
「ええ」
「必ず、姉さんを試合に招待します」
「楽しみにしてるわ」

 優しく笑ってくれた姉さんのためにも、次回は必ずレギュラー入りを。下剋上だ。俺の新たな目標が定まった。


 全国大会へ、姉さんを!


「何や。やけに気合い入っとるやん」
「放っといてください」
「冷たいなぁ、日吉若くんは」
「………自分のレギュラー入り、少しは心配したらどうですか。忍足侑士さん」
「…こら大変そうやなぁ、今回は」


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