「なまえの阿呆…」

 どこを探してもなまえがいない。さっきから学校内を隈無く探しているにも係わらず、見つからない。もちろん、一緒に登校しているのだから欠席なはずはない。たいした用ではないし、帰りでもいいかと諦めかけたその時、ふと中庭の光景が視界に入った。

「ね…ねぇ、なまえちゃん。僕と――」
「今も言ったけど、私はあなたとは付き合えないの」
「………」
「っや、離して!」

 ――ガッ!

「っ痛……何すん――」
「何してんねん」

 軽く殴っただけで数メートルほど吹っ飛んだその男は、なまえと同じクラスの、根暗で有名な奴だった。どうやら、自分とは正反対で明るく可愛いと評判のなまえに惹かれたらしい。こいつがなまえに手を伸ばしかけた瞬間、とうとうキレてしまった。

「ひか、る」
「もう二度となまえに関わらんといてや」
「…き、君には関係な「分かったのか分からへんのか」……は、はい…!」

 少し睨んだだけで後ずさり、転びそうになりながら逃げていく。なまえの方へ目をやると、ぎゅっと抱きつかれた。小さく溜息を吐いて、軽く頭を小突いてやる。

「何やねん。やっと見つけたと思たら男に捕まっとるし」
「ごめ…」
「もうええわ。なまえに用あったのも、何やったか忘れてもた」
「ご、ごめん」
「…ええよ」

 なまえが無事やったしなと髪がくしゃくしゃになるほど撫でてやると、「なんか光が優しい」とか間抜けな顔で言い始めたので、もう1発(俺なりに軽く)小突いてやった。

 その口元は、緩んでいたけれど。


「人の頭をゴツンゴツンと…!」
「俺はええねん。双子やし」
「……! 痛かったのに」
「何なら撫でたろか? 痛いの飛んでけー」
「棒読みで子ども扱い…」
「…どうしてほしいのかよう分からんわ」


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