不二なまえ、俺のもう一人の姉貴だ。歳は兄貴より上だから、俺とは少し離れている。でも、ほとんど友達みたいに接しているし、互いの名前も呼び捨てで呼んでいる。まぁ、姉貴は高校生だし俺より大人なんだけどな。

「なまえ、入っていいか?」
「あれ、裕太…帰ってたの? 急に入ってくるから驚いたじゃない」
「ただいま、って言ったけど」
「そうなの? ごめん、CD聴いてたからかな…聞こえなかったわ」

 勉強の時にいつも聴いているクラシックのCDを止め、勉強机から俺の方へと振り返る。机の上には、山のような参考書と問題集。きっと大学受験に向けての勉強と、学校の宿題なんだろう。

「悪い。勉強の邪魔したか?」
「いいよ、休憩する所だったし。それで、用事は?」

 話を促してくるなまえに、ぽつりぽつりと話し始める。相談事は昔から、話しやすいなまえにばかり話してきたから、やっぱり今でも何かあるとなまえの所に来てしまう。

「……そっか、裕太も伸び悩んでるんだ」
「なかなか上手くいかない、っつーか」
「分かるわ。そういう事はあるもの」

 いつもこうして頷きながら話を聞き、自分の事のように真剣に考えて答えをくれる。だから俺はいつも、立ち直れるんだ。

「サンキュ、ちょっとすっきりした」
「もう寮に戻るの?」
「いや。今日は泊まって明日戻る」
「そう」
「…また夜、話しに来ていいか?」
「うん、聞いてあげる」

 勉強頑張ってな、とだけ残して部屋を出ると、閉まった扉の向こうから再びカリカリとペンを走らせる音が聞こえた。



「なまえ、話いいか?」
「もう。たまには周助とも話したら?」
「…兄貴とはもう充分話したよ」
「そう。で? 今度はなぁに?」


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