山吹中テニス部でマネージャーをしている、2年生の女の子。それは僕の姉さんの、壇なまえなんです。とっても優しくて、テニスも僕よりずっと上手くって。尊敬しています。

「姉さん、僕ですっ! もう入ってもいいですか?」

 部室のドアをノックしながら、部員より先に着替えをしている姉さんに尋ねる。いくら姉弟でも、勝手に入ったりなんて出来ないですからね!

「…ん! いいよー、太一!」

 答えを聞いてから中に入ると、ジャージに着替えた姉さんが、タオルやドリンク用のボトルを用意していた。すでに着替えを済ませていた僕は、姉さんに駆け寄って準備を手伝う。

「手伝ってくれるの? 太一」
「もちろんです! いつも姉さんばかり準備しているんですから…たまには手伝わせて下さいです!」
「そう? じゃあ…ボトルを運ぶのを頼んでもいい? タオルは持っていくから」
「はいです!」

 姉さんからボトルの入ったケースを受け取り、外へと運んでいく。すると、小さな段差に躓いて、ヘアバンドがずり落ちてきてしまった。

「な、何にも見えないですっ…」
「ほらほら。何やってるのよ」

 くすくす笑いながら、僕のヘアバンドをぐいっと上げてくれる。やっと明るくなった視界には、真っ先に姉さんが入った。

「ご、ごめんなさいです!」
「いいよ。さ、行こっか」

 ゆるりと頭を撫でられた後、ボトルやタオルを持ち直し、姉さんと一緒にコートへ向かった。



「太一、ボトルちょうだい」
「どうぞです、なまえ姉さん」
「はい。これ千石先輩と部長に!」
「わかりましたです!」
「それ渡したら、太一も練習ね」
「はい! コーチお願いしますです!」
「ふふ、わかったわ」


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