「リズムにのるぜ!」
「…………」

 朝からずっと目の前で深司とテニスをしているのは、私の双子のアキラ。深司は変わらず涼しい顔をしているけれど、そろそろぼやき始める頃かしら。時間的にも。

「はぁ…せっかく部活もなくて1日休みなのに、朝早くから呼び出されたと思ったら延々と練習に付き合わされるし…何なんだよまったく。今日は欲しい物もあって、買い物に行くつもりだったのに…」
「……やっぱりね。アキラー! そろそろ深司を帰らせてあげなよー!」
「今いいとこなんだぞ!?」
「ゲームはいいとこでも、深司の機嫌は最悪だよ。とうとうぼやき始めたし…6時間も付き合ってくれたんだし、帰してあげたら?」
「…なまえがそう言うなら…まぁ、今日はこれで……」

 アキラが片手で球をキャッチし、ようやく深司は解放された。帰り際に私の隣へ来た深司が、一言。

「……なまえのおかげでやっと帰れる。とりあえず…ありがとう」
「どういたしまして。気をつけてね」
「ん」

 声のトーンからして、今日のは結構疲れてるわ。あれ以上続けたら、やばかったかもしれない――そう考えていたら、後ろから腕をグイッと引っ張られる。

「…何、アキラ」
「なまえ」
「嫌な予感」
「…1球付き合え」
「……やっぱり」

 その後私は、休憩なしでアキラに付き合う羽目になった。途中、杏が通りかかって声を掛けてくれたけれど、アキラの様子を見るなりそそくさと帰っていってしまう。

 ――そのとき、救世主が現れた。

「ねぇ、アンタ。ずいぶん疲れてるみたいだし、ちょっと俺に代わってくんない?」
「…はぁっ、はあ……あれ、リョ、マ…君…?」
「いいでしょ? 俺今、実戦で試してみたい技あるし」
「……ありがとううぅ!!」
「は? な、何が…?」


 私の救世主!(思わず抱きついちゃってごめんね!)


「はぁ…いい加減帰してくんない?」
「まだだ、俺が勝つまで!」
「…アキラ。それじゃあリョーマ君、きっと永遠に帰れないよ」
「………なまえまで…」
「さっきの“ありがとう”って、こういう意味…?……まだまだだね」


[ back ]