――ある朝の、佐伯家。

「なまえ、そろそろ起きろよ?」

 自分の準備を済ませ、まだ起きてこない妹の部屋の前でドンドンと扉を叩きながら名前を呼ぶが、返事がない。まだ寝ているのかと扉を開けると、布団はベッドからずり落ちて、なまえは寒そうに縮こまっていた。

「………」
「……ん…お、兄ちゃ…ん?」

 呆れて眺めていると、なまえは目を擦りながら起き上がり、「あれ…布団が無い」とキョロキョロした。

「…ほら、布団」
「あ、ありがとう」
「目は覚めた?」
「うん。おはよう」

 寝ぼけ眼のなまえの頭を撫でてやり、軽く微笑む。

「あれ? お兄ちゃん、もう制服…」
「俺はもう学校行くよ?」
「え、待って! もうそんな時間!?」

 なまえは大声で叫んでベッドから飛び退き、バタバタと制服や鞄を用意し始めた。あと10分ほどで準備が終わらなかったら遅刻だな…と思いながら階段を下り、リビングでお茶を飲む。2階からは引き続き、ドタバタと足音が聞こえる。

「なまえはまだなの?」
「ああ、さっき起こしたばかりだから。まだみたい」
「新学期に入ったばかりなのに、もう初遅刻かしら?」

 母さんと話しながら、もうそろそろ出ないと本当に俺も遅刻かな、と鞄を持って立ち上がる。その瞬間、リビングの扉が開いた。

「はぁ…はぁ…お、はよっ…」
「…早くご飯食べちゃいなさい、なまえ。お兄ちゃんも待っててくれたんだから…お礼言いなさいね」
「あ、りがと…!」
「大丈夫だから。早く食べなよ」
「はい…」

 なまえに優しく答え、急いでご飯を食べさせる。遅刻寸前。そんな朝。



「ほら、行くよ。なまえ」
「お…お兄ちゃん、ごめんなさい」
「いいよ。あと5分で遅刻だから走るよ」
「えっままま待って、速いっ…!」


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