今日は姉さんと近くのコートまでテニスをしに行く日で、先月からこの日を楽しみにしていた。姉さんは高校でも続けてテニス部に入っていて、俺がテニスを始めた時からずっと目標としてきた人だ。

「千里、そろそろ行くばい!」
「今行くばい」

 玄関の方から自分を呼ぶ声がして、ラケットを持って玄関へ向かう。姉さんはもう靴を履いて、立ったまま待っていた。

「ずいぶん遅かったけど…何やっとったと?」
「ボール探しとったんばい」
「…あれほどラケットと一緒にしとかんと、って前にも言ったんに…」
「うっかりしとったばい」

 行くばい、と立ち上がって先に家を出ると、姉さんが後ろを小走りでついてきて、俺の隣に並ぶ。俺があんなに一生懸命背中を追った姉さんも、今では俺の半分くらいしかないんじゃないかというほどに小さく感じる。

「千里との試合なんて、久しぶりたいね」
「何年ぶりになるか…分からんばい」
「それだけ私も千里も、成長したって事たい。きっともう千里には…テニスも敵わんねー」

 背丈も負けたし、と小さく付け足して、姉さんが少し寂しそうに笑う。その小さな背中は、だんだん俺との距離を広げていく。気付いたら、俺の足が止まっていた。

「千里?」
「…あ」

 はっとして姉さんの後を追い、平静を装って軽く笑ってみせる。それでも即席の取って付けた笑みじゃ、姉さんには簡単にばれてしまった。

「…どげんしたと?」
「……ちょっと考え事たい」
「そ? 考えすぎは良くなかよ?」
「…ん」

 小さく返事をして微笑めば、もうそこはテニスコートだった。


 少し切なくなった
 (でも、近づけた気もする)


 姉さんの気持ちが少しだけ、分かった気がした。


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