「こら、なまえ。待たないか」
「やだ!」
「やだじゃない。しっかり髪を拭かんと風邪を引くぞ」

 帰りにすっかり雨に降られてしまい、俺もなまえも濡れてしまった。風邪を引くから髪を拭けと言っているのに、俺の言う事などまったく聞かん。さっきから濡れたまま走り回るから、床まで濡れている。

「なまえ!…ほら、捕まえたぞ。さあ、髪を拭いてやるからこっちへ来い」
「はーい…」

 後ろから抱き上げ、こちらを向かせて抱き直して言うと、なまえは渋々頷いておとなしくなった。畳の上に座らせて、タオルでしっかりと柔らかな髪を拭いていく。

「お父さん、くすぐったい!」
「お父さんじゃない、桂だ。…あ、いや。いいのか。なまえ、お父さんでいいぞ」

 この艶やかな長い黒髪は、俺に似たのだろうか。しかしこの柔らかさとふわりとした笑顔は、間違いなく妻に似たものだろう。

「なまえ……お前は攘夷は嫌いか?」
「じょう、い?」
「…すまない。なまえにはまだ難しかったな」

 まだ少し湿っている髪を優しく撫でると、何だかよく分かっていないような顔でへらりと笑う。…なまえまで攘夷活動へ巻き込むわけにはいかないな、追われる生活はこの娘には堪えられんだろう。やはり俺が守り育て、なまえが大きくなるまでにこの国を変えてやるしか無さそうだ。



「エリザベス、布団の用意を頼めるか」
[布団ですか?]
「ああ、なまえが寝てしまったからな」
[なるほど。わかりました]


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