僕たちの姉さんは、若人くんのファンみたいにテニス部の周りでキャーキャー騒いだりなんてしない、静かで優しい人だ。浩平とは双子だからよく似てるって言われるけれど、姉さんに似てるとはあんまり言われないかも。
「洋平、浩平!」
向こうで華村先生の隣から僕たちを呼んでいるのが、なまえ姉さん。部活が始まる前のこの時間に姉さんが来るなんて、珍しい事だ。
「なまえ、あなたもテニスをやればいいのに。洋平くんたちは、よくやってくれているわよ? 私が教えてあげましょうか?」
「先生、私運動なんて全然だめなんですよ? 運動神経なんてものは、全部洋平たちに持っていかれちゃって」
ああ話しているけれど、姉さんだって少しはテニスするのに。……なんて口を挟んだらきっと、「余計な事は言わないの」なんて怒られるだろうけれど。
「なまえ姉さん、何?」
「僕の事も呼んだ?」
「二人とも呼んだのよ、浩平。遅い!」
「「痛っ!」」
軽く頭を小突かれて、揃って大袈裟に声を上げる。そんな事をしたところで、姉さんは甘い顔なんてしてくれないんだけど。
「あれ、なまえ姉さん? それ…」
「あんたたち、ジャージ忘れてったわよ。朝、玄関にね。しかも二人とも!」
少し呆れたような声とともに差し出されたジャージを受け取る。そういえば忘れた気がするかも。
「ありがとう、なまえ姉さん」
「本当だ。僕も忘れていたのか…」
「もう…しっかりしなさい!」
そう言って姉さんは、自習のために教室に戻っていった。……先生は、まだ姉さんの事を諦めてはいないみたいで、しばらくその後ろ姿を見つめていたけれど。
「ねぇ、なまえを誘ってみてくれない?」
「きっと姉さんはテニス部には入らないですよ、先生」
「あら…残念だわ。あのスタイルだし、少し鍛えたらきっと良い選手になるのに」
「…じゃあ、話すだけ話してみます」
「お願いね! 二人とも!」
「「は、はい…」」
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