私のお兄ちゃんは、城成湘南テニス部の副部長です。確かにテニスは上手なんだけれど…それは私も認めるけれど…、

「キャー! 若人くーん!」
「こっち向いてー!」

 ……よくモテます。相変わらずアイドルのような人気で、ファンも多くて。今だって部員同士の練習試合中だというのに、周りのファンの女の子達は甲高い悲鳴を上げている。そして笑顔で応える我が兄。
 休憩で戻ってきたお兄ちゃんに、タオルを投げ渡す。初めて練習試合を見学しに来てみれば、噂には聞いていたが本当にこんな状態だとは。

「投げる事ないんじゃない? なまえ」
「お兄ちゃんのナルシスト」
「……ああ、ヤキモチか」
「………(違うってば)」

 心の中ではそう思うものの、口に出して言ったら言ったで「照れてるの?」とか言い出しそうなので黙っておく。…確かにかっこいいんだろうとは思うけれど、身内だからかよく分からない。

「…ま、俺が一番好きなのはなまえだから安心しなよ。ね?」

 子どもをあやすかのように頭を撫でられ、だから違うってば…と肩を落とす。その姿を見て、またファンの人達から悲鳴が上がる。ああ…明日からファンの人(特に先輩達)に虐められてしまいそうだ。

「な…何よあの子!」
「若人くんから離れなさいよ!」
「…その辺でやめといた方がいいと思うよ。な、浩平」
「うん…若人くんが怒るぞ」

 こんな風に騒がれるのは初めてで思わず固まっていると、騒いでいた女の子達に、洋平くんと浩平くんが揃って注意をしてくれた。
 怒る…? いつも女の子に囲まれている、お兄ちゃんが?

「ねえ…君達さ、」

 お兄ちゃんがゆっくりとファンの子の方へと向き直り、優しく微笑んで言った。

「俺の妹に文句があるんならさ…帰ってくれて構わないよ? 今すぐに」

 にっこり笑ったお兄ちゃんの言葉に、ファンの子達が固まる。しんと静まり返ったコートで、試合が再開された。

「…さ、なまえも見学しに来てる事だし。負ける所なんて見せられないね」
「ひっ!」

 サーブの前にボールを弾ませるお兄ちゃんに、相手の部員が後ずさる。

「じゃ…いくよ?」

 またプロのプレーヤーになりきったお兄ちゃんは、怯んだ相手を10分足らずで負かしてしまった。今日は私から見てもちょっとだけ、かっこよかったかもしれない。


 一瞬で広まった、若人くんの妹


「お兄ちゃん」
「ん、どうかした? なまえ」
「ちょっとだけ、かっこよかった」
「…ま、相手は後輩だったし。勝つのは当然だったけどね。ありがとう」
「……やっぱりナルシスト」
「ん? 何?」
「なんでもない」


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