「ちょっと…ねえってば」

 さっきから何度も声をかけてるっていうのに、なまえは全く聞いていない。テレビばっかり見てるから、聞こえてないんだろう。深い溜息を吐いてから、肩を掴んで自分の方を向かせる。

「ねえ!」
「…な、何?」
「さっきから呼んでるんだけど」
「ごめん、何?」

 悪く思っている素振りもなく答えるなまえに、また溜息が出る。気を取り直して、もう一度言う。

「この前言ってたやつの、うす塩味」
「あ!」

 ビニール袋からスナック菓子を取り出して見せると、あー!と叫んで手を伸ばす。ひょいと菓子の袋を高々と掲げれば、なまえも負けじとさらに手を伸ばす。なかなか渡さない俺についに痺れを切らして、なまえが口を開いた。

「ちょうだい、それ!」
「誰があげるって言ったの」
「え」
「これは俺の。あげるなんて言ってないよ」

 横目に見ると、ものすごく残念そうに眉を下げるなまえがいた。


 …ちょうだい!


「ねぇ、1枚くらいいいじゃん」
「…とりあえずテレビ消してくれない? それがついてる限り、俺達の会話成り立たないから」


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