朝早くに嫁が出かけて、今この家にはなまえと俺の二人きり。まだ幼い娘のなまえは、最近ようやく使えるようになってきた箸を器用に動かし、ご飯を食べている。ああ、またご飯粒がぽろぽろと…

「なまえ、ご飯粒零してるよ。服にも付いてる」
「あ、ほんとだ!」

 ティッシュでご飯粒を拭き取り、食べ終わった皿は自分で下げに行く。自分で言うのもなんだけど、よくできた子に育ったと思う。小さい体で茶碗を持ってよたよたと歩く姿は、健気で微笑ましいものだ。

「お父さん」
「ん?」

 自分も皿を下げて後片付けを済ませ、座布団へと戻ると、なまえに不意に話しかけられた。

「何? なまえ」
「お父さん、髪むすんでる」
「ん? ああ、これか。さっき朝ご飯作る時に、邪魔だったから結んだんだ」

 普段は髪を結わないからだろう、なまえに髪を指さされた。するとなまえは俺の膝へ座り、俺の方へ頭を向ける。

「お父さんと、おんなじにして!」
「髪を?」
「うん!」

 にこにこと機嫌良く笑うなまえの髪に櫛を通し、その柔らかい髪を丁寧に束ねていく。そして、この前出かけた時に嫁に買ってもらっていた、なまえのお気に入りの淡い桃色の髪飾りで結ってやった。

「出来たよ」
「やったぁ、お父さんとおそろい!」
「うん。髪飾りもよく似合ってる」

 鏡の前ではしゃぐ姿を見ながら俺も髪を結い直し、もう一度なまえを抱き抱えた。



「あらあら、なまえ。髪を結ったの? 可愛いわ」
「お母さん、おかえりなさい!」
「その髪どうしたの?」
「お父さんとおそろいなの!」


[ back ]