朝からの用事を済ませて急いで帰宅すると、小さな弟が腹を空かせて待っていた。ドアを開けた瞬間、ソファに座って待っていた彼が振り向いて、キッとこちらを睨み付ける。

「ただいま、ユウ」
「おせェよ! なまえ」
「ふふ、ごめんなさいね」
「はらへった!」
「はいはい。何が食べたいの?」

 くすくすと笑いながら、小さな彼に今夜何を食べたいかを聞いてみる。…答えは分かっているのだけれど。

「そば!」
「…そう言うと思って、帰りに材料を買ってきたわ。お蕎麦ね」

 ユウが小さく頷いたのを確認して、蕎麦やおかずの材料が入った袋を持ったままキッチンへと向かう。すると、小さな足音がついてきた。

「…なぁに? ユウ。まだ茹でていないもの…食べられないわよ?」
「なまえ、はら…へった」
「分かってるわ。ほら、りんご食べて待ってて」
「…ん」

 食べやすく角切りにされたりんごが入ったカップを手渡すと、フォークで美味しそうに食べ始める。ユウは満足そうにリビングへ戻り、私は急いで蕎麦の準備を始めた。



「ユウ、お蕎麦できたわよ」
「……あつっ」
「もう…慌てて食べるからよ」
「水、水くれっ」
「…はいはい」


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