「待ってください、なまえ」
「ごめっ…こ、こっち来ないでー!」
「アレン落ち着けー!」

 人の仕事中にあっちでバタバタと走り回っているのは、俺の娘のなまえと、なまえを追いかけ回すアレンとラビの3人だ。もう見慣れた光景だが、徹夜続きで若干苛立っている俺には、このうるさい環境は厳しいもんで。

「…今度はどうしたんだ、アレン」
「なまえが僕のアイスを…!」
「ひとくちちょうだいって言って、半分食べたんさ」
「……そういう事か。悪いな、今度食堂で奢って返すからさ」

 今回は許してやってくれと頼んで苦笑すると、アレンはラビに肩を叩かれながら自室へ戻っていった。食べ物に関してあの状態になったアレンを静めるのは、難しいからな…ラビが居てくれて助かった。

「はい、コーヒーどうぞ」
「ん? ああ…リナリーか。いつも悪いな。…あ、なまえ」
「疲れた…」

 リナリーの陰から出てきたのは、なまえだった。少し驚いた顔で「私に隠れていたのね?」と言いながら、リナリーがなまえの頭を撫でる。

「おい、なまえ。アレンのアイス、半分食ったんだってな?」
「………」
「黙ってたって分かるぜ。鏡見てみろ、口の端っこ」
「あ」

 鏡を見たなまえは自分の唇に付いたアイスを見て、慌ててティッシュで拭き取った。……まったく、困ったもんだ。書類からは目を離さず、出来る限り優しく言う。

「あとでしっかりアレンに謝れよ? …ラビにもな」


 食い物絡みの喧嘩は凄まじい


 ったく、食い物の怨みは恐ろしいとはよく言ったもんだぜ。


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