「なまえ」

 任務も終わり、教団への帰り道で通る野原で少し散歩をする。ふと視線を向けた先には、僕の娘のなまえ。白い肌に、自分によく似た銀色がかった髪を持つ女の子だ。危ないから駄目だと言ったのに着いて来てしまった彼女は、指定の部屋で探索部隊に預けていたにも係わらず、勝手に部屋を抜け出していた。地べたに座って地面を見つめている。

「あんなに部屋を出たら危ないと言ったのに…そんな所で座っていたら、風邪引いちゃいますよ? ほら」
「あ!」

 軽い体を抱き上げると、なまえが声を上げる。何かと思ってなまえが座っていたあたりを見やると――。

「…あ」

 近くの茂みの中から小さく顔を覗かせたのは、1匹の子うさぎだった。ひょこりと出て来たうさぎに反応して、なまえが精一杯に手を伸ばす。

「お父さん、うさぎ!」
「…あれを見ていたんですか?」
「うん、まっしろ! お父さんも、私もいっしょ。まっしろ」
「ああ、髪の事ですね?」

 腕の中にいるなまえの髪を撫でてやりながら、しゃがみ込んでうさぎを抱え上げる。なまえの腕に渡っても大人しく抱かれているあたり、人間に慣れているのかもしれない。よく見ると、うさぎの背には赤茶色の毛が混じっていた。顔は真っ白だが、体は一部斑模様のようになっている。

「なまえ。この子、赤毛も混ざってますよ」
「赤……ラビ!」
「……本当だ。ラビみたいですね」

 くすくす笑ってしばらくうさぎの背を撫でていると、なかなか来ない僕たちに痺れを切らしたラビ達が、宿の方から迎えにきたのだった。



「あ、ラビー! 見て、うさぎ!」
「本当だ、可愛いさー!」
「ふふ、本当。可愛いうさぎね」
「リナリーお姉ちゃんだ!」


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