「はじめちゃん」
「……その呼び方やめろっつったべ」
「でもはじめちゃんは、はじめちゃんだよ」
「……はぁ」
「子どもの頃からはじめちゃんだもん」
「そうだけど」
「なら岩泉くんって呼んだほうがいい?」
「…今更それは気持ち悪ィわ」
「じゃあ、はじめちゃんでいいじゃない」
「……」
「はじめちゃん、ケーキ食べたい」
「おー、買ってくか」
「あ、クレープ」
「…はいはい」
「たこやきもある!」
「お前いい加減にしろ」
「痛ぁ! せっかくの部活休みじゃない! 寄り道しようよ!」
「せっかくの休みだからさっさと部屋で休むんだ、俺は。お前どんだけ食ったら気が済むんだ」
「たくさん」
「選手でもないのに…んな食ったら太るぞ」
「今日だけ今日だけ」
「あのなぁ…」

「〜〜〜〜っ、ちょっと!!! 俺を無視しないで!」
「いたのか及川」
「いたよ!! 最初からいたよ! 学校出たときからずっといたよ!!」
「徹くん怒らないで。はい、あーん」
「あーん……もぐもぐおいしい〜! なまえありがとう! じゃないよ!! あぶない、クレープのひとくちで丸め込まれるところだった」

「それでね、はじめちゃん。英語の宿題なんだけど」
「あー、あれな。見せねーからな」
「……うぐ…」
「だから! 及川さんはここにいまーす! 無視しないで! なまえ、宿題なら俺が見せてあげるから無視しないで!」
「ほんと! 徹くん大好き!」
「えへへ、俺も大好きだよなまえ!」
「お前はいい加減ただ利用されてることに気付け」
「??」
「きょとんとすんな」
「あっ、分かった! 岩ちゃんったら、俺がなまえに抱きつかれてるのが嫌なんだね! ヤキモチってヤツだね!?」
「は?」
「うんうん分かる〜、俺も昨日なまえが金田一に飛びついてるの見たときは金田一どうしてやろうかと思っちゃった〜」
「金田一がゲッソリしてたのはお前のせいか」
「ほら俺なまえちゃん一筋だから! いくら金田一でも、可愛いなまえに飛びつかれて顔を赤くしてるのは許せなかったっていうか!」

「あ! はじめちゃんあれ見て、たいやき! 食べたいなぁ!」
「お前は俺の小遣いを食い潰す気か」
「ふたりとも俺の話を聞いて!」
「えへへたいやき〜! クリームとあんこ」
「両方買ったの?」
「おいしかった!」
「わあ、食べるのはやいね」
「今度はしょっぱいのがほしいな」
「ダメだ、もう帰るぞ。お前英語やるんだろ」
「はーい…」

「なまえ、なまえ! 英語の宿題なら俺に聞いて! 教えてあげる!」
「じゃあ英語は徹くんに」
「? 英語は??」
「うん。世界史のプリントははじめちゃんに…」
「……なまえ…」
「お前は宿題を溜めすぎだし俺は手伝わん」
「えぇえ…」
「何びっくりしてんだ。手伝わん」
「うっ…私にはもう徹くんしかいないの…」
「まっっっかせてなまえ!!! 俺が何でも教えてあげる!!!」
「徹くん大好き!」
「ああぁあよしよしよしよし、かわいいなあ!」
「一生やってろ」
「一生やりますとも!」
「え……一生は…いいかな……」

「長年幼馴染みやってるけど、初めてなまえちゃんにふられた…及川さんこの上ないショック…本気で申し訳なさそうな顔するのやめてよ……」
「賢明な判断だ、なまえ」
「……もー!! なまえは俺と岩ちゃんどっちが好きなのさー!! ちっちゃいときは『わたしふたりのおよめさんになる!』って笑顔ですりすりしてきて可愛かったのにー! ていうか、3人で結婚はできないんだからね!?」
「うーん。総合的に冷静に考えたら、結婚するならはじめちゃんかなぁ」
「はいはい、そーかよ」
「うん。はじめちゃんきっと頼りになるし」
「どうだかな」
「………」
「おい、どうした及川」
「置いてっちゃうよ」
「置いてこうぜ、面倒だから」
「わあああああん!! なまえちゃんのばかぁあああ!!!」
「……行っちゃった」
「ほっとけ、どうせもう家そこだし」
「うん」

***

(ぴんぽーん)

「はーい……ってなんだ及川か」
「なんだって何!!」
「宅配便かと思った。出て損した」
「ここになまえがいることはわかってるんだよ! ってか損したって何!?」
「言葉のままだ。なまえは俺の部屋」
「ま、まさか……俺のベッドで寝てるぜとか、そんな展開じゃ」
「ねぇよクソ川! 俺のプリント書き写してんだよ」
「だよねぇ〜! 岩ちゃんがなまえに手出せるわけないよね!」
「うっせ黙れクソが」
「その目やめて!!」

***

「はじめちゃん、お客さん?」
「いや。クソ川」
「ちょっと! 俺お客さんだよ!! やっほー、なまえちゃんの大好きな徹くんだよ! おまたせ!」
「さっきはひとりで走り去っていったくせに、寂しくなって来ちゃったの?」
「……」
「なまえ、言わないでおいてやれ。部屋の隅でデカい図体でうずくまられると邪魔だからよ」
「…え、えーっと……わ、わー! 徹くん待ってたよ! 英語教えてほしいなぁ!」
「もうもう! しょうがないなぁ! なまえの頼みなら仕方ない、徹くんが教えてあげよう!」
「……」
「(はじめちゃん、その目やめてあげて)」
「(悪い…お前がせっかく機嫌直したとこだもんな。努力する)」
「こそこそ話すのヤメテ!!」
「うるせぇ!」
「いったぁあ!! クッションとはいえ顔面はやめて!」



 ぐだぐだする幼馴染み3人組

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