知られざる者




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焚き火の火がぼうぼうと燃えていた。
夜の帳にはよく映える。橙色の炎はフィルターとなり、そこへワンの姿が映し出されていた。大きな体で、変わらず元気よく走り回っている。

「……何を笑ってる」

音も無しに名前の横へ、人一人分のスペースを開けて座ったのは、野性味あふれる一匹狼の男だった。
掛けられた声により、ワンの姿は水に溶けるように無くなってしまった。
訝しげにこちらを見る男に名前は唇を突き出した。

「今、ワンがそこで遊んでたのに」
「ワン?」
「私の家族であり、素敵なボディガードだった」

冬が近づくこの肌寒さに炎の熱は暖かいけれど、決してワンには勝てないだろう。
無意識に七分袖から出ている腕を撫でさする。

「寒いなぁ。あの綺麗で厚みのある毛のワンがいたら今頃こうして鳥肌になんてなってない」
「……犬か」
「優しい紳士なの」









腹ふくるる