毒を食わらば、語ろうか

喧噪とした夜であった。
風呂上がりのナマエは、夜風にあたって火照りを冷まそうと甲板へ出た。
昼過ぎに島へ到着し、ナマエの所属する四番隊は食料調達班と調理班にわかれることになった。島へ出たかったが、じゃんけんに負けたナマエは夕食の準備となり、大所帯のクルー達のために熱気のこもる厨房でひたすら調理に勤しんだのであった。これは特段珍しいことではなく、海賊団の胃袋菅理をまかされた四番隊では常日頃のことである。
やれやれ、今日も無事に終わる。明日は島へ下りて散策でもしようか、と考えていると陸がやけに騒がしくなった。船の見張りを任されたクルー以外は島に出払って自由に夜を過ごしており、船には最低限度の人数しか残っていない。静かな、時折談笑の笑い声が聞こえるだけであった船上が、急に慌ただしくなる。
もしかして、敵襲?
四皇と呼ばれる白ひげ海賊団においそれと手を出すものは、よっぽどの怖いもの知らずしかいない。敵襲ならば、非戦闘員であるナマエは身を隠すしか術をもたない。

「何があったの?」

甲板を走るクルーを捕まえて問いかける。冷や汗を流したクルーは、ナマエをみるや少したじろぐように答えた。

「エース隊長が盛られたらしいっ…!」
「えっ…?」

モラレタ?
ナマエは瞬時に状況を理解できずにいた。船上に残る仲間たちは、陸からモビー・ディック号へ上る階段へとぞくぞくと集まっていく。
どういうこと?何が起こったっていうの?
盛られたと聞いて、最初に浮かんだのは毒の類であった。医学については知識はないが、古来より毒は暗殺にも使われているときく。まさか命の危険があるということなのかと、今までに味わったことのない不安が押し寄せる。
エースは強い。それは、この船の誰もが知っている。戦いでは前線にたち、そりゃ無茶をすることも多いけれど。彼はいつも気丈で逞しく、ナマエがヘマをして敵に捕まったときも一目散に助けに来てくれるのは彼だった。心から信頼している。死を彼と結びつけることなど、今までに一度たりともなかった。

「エース‼」
「しっかりしろっ‼」

叫び声があがり、嫌な思考から現実に意識を戻した。慌てて声が上がる方へ駆け寄り、「どいて!」と大柄な仲間たちを搔きわけて最前に出れば、マルコとサッチの肩に担がれたエースが目に入った。マルコとサッチはナマエが登場したことに、あからさまに目を剥いたが、そんなことは気にもしなかった。
体を真っ赤に火照らせたエースの足取りは重く、半ばマルコたちに引きずられるようにして、辛うじて自分で歩けているようであった。ぜえ…ぜえ…と苦しそうに呼吸して胸が大きく上下している。ただ事ではないことは一目でわかった。

「エースっ」
「ナマエっ‼」

駆け寄ろうとした足を、咎めるようにマルコが鋭く叫んで制した。隊の違う彼にこれほど鋭く名を呼ばれたことがなかったので、驚愕で足はぴたりと止まってしまった。
どうして、止めるんですか?
怪訝にマルコを見れば、マルコはナマエへ手のひらを向けて首を振った。
「いいか、ナマエ。お前は絶対にエースに近づくな」
言い聞かせるようにマルコは言う。名前を強調されて、明らかに自分だけが弾かれたことがわかった。
そんなに苦しそうなのに。仲間を介抱してやることもできないのか。理由もわからずに、納得することなんてできない。
込み上げる怒りを押さえきれず、抗議しようと口を開いた瞬間、エースの気だるげな赤く染まった目がナマエを捕えた。エースは目を見開き、ギラリとその瞳の奥が光った。
ぞくり…
纏わりつく視線に、つま先から胸を冷やすような恐怖が駆け上がる。
怖い…
獰猛な獣に狙いを定められた草食動物のように体が震え、自ずと、一歩後退する。辛うじて動く視線をサッチに移せば、サッチもマルコと同じように首を横にふった。

「お前はもう寝ろ」

念を押すように言葉を投げられるが、頷くこともできやしない。ナマエはエースが船の奥に運ばれていく背を見送ることしかできなかった。
ただならぬことが起こっている。それしか、ナマエにはわからなかった。





寝ろ、と言われても寝られるはずもなく。
むしろエースに向けられた視線が忘れられず、脳は覚醒していた。あの後三人がどこへ向かったのかもわからない。
甲板に出ていれば何か情報が入るかもと粘ってみた。時折現れる一番隊の隊員を掴まえて尋ねても、みな同じようにナマエは近づいてはならないと首を振る。しかしナマエが食い下がれば、こっそりと新しい情報も教えてくれた。
エースが盛られた薬は、幸いにも命を脅かすような物ではないということだ。マルコが処置にあたっており、時間がたてば症状も改善するのだという。
よかった…
その情報を知れただけで、肩の緊張がほぐれた。
先ほどのエースはナマエの知らない顔をしていて、恐ろしかった。近づくことさえ阻まれた。彼をそんな風にする薬物とはいったい何なのだろうか。
医学に関して知識が浅い自分が考えても仕方ない。マルコを信じて、今日はもう寝よう。明日になれば、きっといつもと変わらないエースに戻っているはずだ、と言い聞かせた。しかしどうも脳が冴えて眠れそうになかったので、何か暖かい物でも飲んで落ち着こうと厨房に向かったのであった。


戸を開ければ、すでに先客がいるようである。

「それにしてもエースくん、相当強い薬を飲まされたみたいね」

エースの名が話題に上がり、思わず戸を開ける手を止めた。ナースたちであった。
盗み聞きなんて好きではないが、エースのことが気がかりでナマエは聞き耳をたてた。

「苦しそうだったわね。何でも酒場の女に盛られたみたいよ」
「ええっ!?怖〜い。でもほら、エースって意外に誘いにのらないじゃない?」
「そうよね。彼女の気持ちもわからなくもないわよね」
「ほら。さっきの彼みたでしょ?私正直、ちょっと興奮しちゃって」
「こら、不謹慎なこといわないの」
「え〜?だって貴方だって思ったでしょ?」
「まあね。エースくんだったら、そういうことになってもいいわよね」
「後で部屋にこっそり行っちゃう?ワンチャンスあるかもよ?」

マルコと共に、エースの処置にあたったナースたちだろうか。ナースたちは浮ついて、エースの話題に夢中でナマエの事には気づきもしない。冗談っぽく話す甘い声の中に、彼女たちの下心が垣間見えて嫌になる。
彼女たちが暗に話す会話の意味がわからないほど、子どもではない。エースが盛られた薬が『媚薬』の類であることをナマエは理解した。そして彼女たちが起こそうとする行動も予想がつく。幼いころからこの海賊船に乗っているとはいえ、一般的な男女の知識は持ち得ている。
一般人として自由に恋愛を謳歌してきた彼女たちのような経験はないけれど。コケティッシュで、しなやかな曲線のある柔らかな体がエースに跨る。そんな場面が浮かんでナマエの中でドス黒い何かが生まれた。
嫌だ。そんなの、嫌だ。
エースは大切な仲間であった。一年程前に、オヤジに負けた経緯から船に乗った男。エースの守を任されたサッチに、歳が近いから相手をしてやれと引き合わされた縁だ。
最初は狂犬みたいに何事にも食いかかってきて、そりゃ生意気だった。ナマエが作ってやった飯を一口も食べずに「そんな不味そうなもん食えるかよ」と言い捨てられたときは、フライパンを手に本気で殴りかかった。何度言っても盗み食いはするし、厨房で寝るし、勝手に私室にも入ってくるし。でも、エースとは一緒にいることはナマエにとってはあまりに日常であった。
彼への想いを、恋なのかと問われれば、「わからない」としか答えはだせなかった。腐れ縁と言われれば、そうかもしれない。
けれど、今、感じるこの気持ちは何だ。
誰かのものになってしまうぐらいなら…
今までにない彼への想いが急に溢れ出てきて止まらない。こんな感情が自分の中にあるなんて知らなかった。
こんなことは間違っている。頭の中では警鐘がなり続けるのに、ナマエの足はナースたちが会話の中で漏らした、エースが隔離されているという部屋へと進む。
嫉妬であった。その感情だけがナマエの足を進める。



途中、数名のクルーとすれ違ったが、適当に明日の調理の準備だと誤魔化した。
エースが隔離されているという場所は船の備品庫の傍の部屋だ。不自然ではない。下っ端の部屋で今は空き部屋となっている。簡易なベッドぐらいしか置いていないはずだ。
マルコやサッチに出くわすことを覚悟したが、部屋周りは誰もおらず、驚くほどに静かであった。本当にこの部屋であっているのか。疑いの気持ちすら出てくる。
コン コン コン
扉を打って、耳を澄ましても返事はない。

「エース…?」

恐る恐るノブを回せば、ギイと錆で鈍った音を立てて扉は開いた。埃っぽい空気に咳き込みそうになり、堪えて部屋を見渡すが、誰の姿も見えない。
しかし、エースがここにいたのは明らかであった。ベッドシーツはぐしゃりと乱れ、ベッドの傍には彼の靴が左右バラバラに散っていた。
どこに…?まさかもう既に、ナースたちに囲われてしまっていたら…!
慌てて外に飛び出すが、自分の足音だけが忙しなく通路に響いて、ナマエは深く息を吐き出した。
私は何を、考えているんだ。エースの様態よりも、女たちに彼が迫られる方を心配するなんて、どうかしてる。最低だ。
部屋に誰もいなかったことで拍子抜けたことが幸いしたのか、ナマエはいくぶん落ち着いた。身を焦がしそうな感情に何も考えられず、勢いでここまで来てしまった自分が恥ずかしくなる。
医療室へ移動したと考えるのが現実的だ…と歩いてきた通路へ踵を返すが、ガタっと鈍い音が奥の部屋から聞こえて足をとめた。備品庫からであった。
きっと、ここにエースがいる。
何故か、そんな確信めいた予感がして、固唾を飲んで扉に手を伸ばした。

真っ暗な部屋に、積荷の影がぼんやりと浮かぶ。各隊の備品が所狭しと置かれたその中に、ぜえ…ぜえ…と呼吸を乱して揺れる影を見つけた。
まぎれもない、エースであった。
エースは四番隊所有の酒樽に背を預け、床に座っていた。
彼に向けられた視線に感じた恐怖を忘れたわけではない。ナースの言葉で目覚めてしまった嫉妬を忘れたわけではない。けれど苦しそうに唸る彼を放って置けず、ナマエはゆっくりとエースに近づいた。一歩がひどく重い。

「…マルコか…悪ィ、ちょっと、喉が乾いちまって…」
「…ワインならあるけど。飲む?」
「ナマエっ…!?」

予想にしていない人物の声に、エースは動揺したようだった。
「薬飲んでる人に、アルコールは流石にまずいか」
ははっ、と空笑いをして平常心を保とうとするが、エースの瞳は容赦なくナマエを再び捕えたのだった。暗闇の中でもわかる。彼の瞳孔が開いて、ギラリと光り、また足が竦む。

「ぐっ、あ」
「エースっ!」
「来るなっ!」

苦しむ彼に反射的に駆け寄ろうとすれば、剣のある言葉で咎められて肩が跳ね上がった。

「なんで来た?すぐに出てけっ!」
「でも、エースが苦しそうで…」
「心配、すんなっ…。マルコたちに見てもらってんだ。すぐに、良くなる。ぐ、ああ…」

マルコたち。その言葉に過剰に反応してしまう。そこに彼女達が含まれているのかと思うと、鎮めた黒い気持ちが湧き上がった。
醜い感情に突き動かされて、ナマエの足は動いた。駆けつけて彼の肩を掴めば、弾かれたようにエースは顔を上げた。肩は酷く熱く汗ばんで、彼が過剰な熱をもっていることが痛いほどに伝わってくる。きっと彼の体はまだ、甲板でみたほどに赤いに違いない。
エースが怖い。
でも、助けたい。
この熱を取り除いてあげられるなら。
誰かがその熱の吐口になるぐらいなら…私が。
暗闇に順応した双眸が、触れ合う距離ではっきりとその表情をとらえた。苦しいはずなのに、懸命の虚勢で堪える顔をみると、うずうずと腹の奥から這い上がるものがある。
彼が飲まされた物が媚薬であるならば、この熱を冷ます方法はナマエの知る限り一つでしかない。
ナマエは処女であった。時折酔っ払ったクルー達から聞く下賤な会話や、ナース達から聞く恋愛話で得た知識を繋ぎ合わせての想像でしか、この行為を知らない。
ナマエの手はエースの下腹部へ伸びた。エースのズボンを押し上げる膨らみに手を伸ばせば、硬いものに触れた。想像以上の硬さに、一瞬竦み指の動きが止まる。しかしナマエの指が触れただけで、エースは快楽に堪えるように肩を揺らして息を詰めた。

「うっ……や、めろ…」
「…止めない。苦しいんでしょ?」
「お前が、こんなことする必要は、ぐっ、ねェっ」

言葉を聞かず、昂りに指を這わせれば、ますますそれは硬さを増したようであった。

「だめ、だ」
「…本当に嫌なら無理矢理に引き剥がしてくれていいから」
「馬鹿、やめっ、ぐっ、くっ…!」

強引にベルトを外してファスナーを下ろす。下着の中で行き場を求める熱が猛々しく起立している。口ではやめろと言うくせに、エースの手は伸びてこない。それをいいことに、下着をずらすと、ぶるんっと熱の塊が飛び出してナマエはその大きさにたじろいだ。
大人の男性器を見るのは初めてであった。暗闇の中で、反り立ったそれは異形であった。昂りの先端に恐る恐る手を伸ばせば、すでにそこは湿り気を帯びていた。

「…うっ」

熱の籠った吐息を出しながら、エースが低い呻き声を上げた。
男は皆触れられればこうなるのか、これが媚薬の効果によるものなのか区別はつかない。けれどエースが自分の指に反応してくれていることは目に見えてわかる。手のひらで包み、上下に動かせば彼はたまらず腰を震わせる。
強くしすぎてはだめよ、とナースが言っていた。エースの表情をみながら、加減を見計らう。

「気持ちいいの…?」
「もうっ、やめろっ…」

手のひらの中でびくりと震えて熱は硬く大きくなった。拙い指で触れるたびに素直に彼の体が反応するのが嬉しい。私にだってできるのだと、自尊心を満たしていく。
ナマエはエースの足元に移動して、立ち上がったそれに舌を這わせた。こんな行為が情事の中にあるのだと知った時は、汚いとか気持ち悪いとしか思わなかった。けれど、そんなことは今は微塵も思わない。早く彼を楽にしてやりたかった。
先端に短く舌を突き出して、優しくくすぐるように啄む。エースの腹筋が揺れて、艶やかな声が漏れた。
ちゃんと出来てるってことだよね…?
ゆっくりと昂りを口に含み、上下に動かして、裏筋に舌を這わせて何度も吸い上げる。見上げれば、エースは快楽を堪えるように顔を歪ませて股に収まるナマエを見下ろしていた。視線が交わると、口の中のものが大きく跳ねて、先端部分からにじみ出る液体の量が増えたようであった。

「っ出るっ…!」

エースは顎をあげて唸る。終わりは近いようであった。夢中になって唇で吸って締めあげれば、昂りはさらに猛々しく起立する。

「んっ、ぐっ…ぅ…!」

そしてエースのものは爆ぜて、白い精をナマエの口内に吐き出した。生ぬるい、とろみのある液体が流れ込む。ナマエの小さい口ではそれを全て含むことができず、唇の端からこぼれ落ちる。苦しくて、咄嗟に嚥下すれば、エースは目を剥いてナマエの両肩を掴んだ。

「馬鹿っ!飲んだの…か?」
「えっ…」
「無理しやがってっ!」

口の端を指で拭われた。
よかった、これでエースの熱も収まる…
しかしエースのものは、むくりとすぐに起き上がる。
今度はナマエが目を剥いた。男は精を吐き出せば、昂りを落ち着かせることができるのではないのか。知り得ない事象が起こってナマエは困惑した。

「どうしてっ」
「…収まるわけねェだろ。…ありがとな、少し楽になった」

嘘であった。むしろ先ほどよりも彼の表情は険しく、呼吸は荒くなっていく。

「で、でも、まだ」
「もう出てけっ!お前にこれ以上こんなことさせたくねェ‼」

食い気味で圧のある言葉を投げられ、ナマエの肩はびくりと震えた。
私では役不足だったのか。ナースたちならば、もっと上手くやれたのか。
悔しくて涙が込み上げそうになった。
エースの言う通り、ここから出た方がいいのかもしれない。ごめんね、と伝えようと口を開くと、ドクンと心臓が大きく跳ね打ったのだった。

「あっ…くっ…ううっ…!」

ナマエは心臓を抑える。

「っ、おい、ナマエ!どうした」

エースが肩を揺すった。触れる箇所が熱い。体中から湧き上がる身を焦がすような熱に体が飲み込まれるようだ。
喉が熱かった。酸素を求めて口を開けるが、ぜえ、ぜえと僅かにしか息を吸い込めない。エースに似た症状が自分にも現れているのだ。
苦しい。熱い。けれど、それ以上に…彼に触れてほしい。

「エ…ス」
「お前、まさか…」
「わたし、おかしくて…。からだが、あつくて…」

ナマエは知らず知らずのうちに、己の胸へ手を伸ばした。こんなこと…今までしたことがないのに。服越しに柔らかく胸を揉むだけでも快楽の波が押し寄せる。
もし、ここにエースの指が触れたのなら。
そう想像するだけで胎の奥が疼き、どこからともなく、ぴちゃっと水音が二人の吐息しか聞こえないこの部屋に響いた。
必死に堪えていたエースの枷は容易く外れた。

「っくそっっ‼」
「んんっっ」

噛み付くようにナマエの唇は塞がれた。頸と腰に手を回されて身体を固定されて。貪るように、一ミリも隙間などないほどに塞がれる。熱い舌が口の中を暴れ回って、ナマエの舌を絡め取って蹂躙する。掻き回されて、吸われて。痺れが背筋を走り抜け、こんな獣のような口付けでナマエの下腹部は水気を増していく。
唇は離さないまま、無骨な指はナマエのショーツに伸びた。ショートパンツの下から太ももをなぞって入った手は、布越しに割れ目に触れた。もうすでに溢れるほどに蜜を染みこませたショーツは役割を果たしていなかった。ショーツを避けて指を伸ばされ、蜜口に触れられる。処女のはずのそこは容易に侵入を受け入れた。
すぐさま二本目の指が入れられた。襞を広げて蜜を掬い上げながら進む。くちゅ、くちゅと淫靡な音が大きく鳴った。

「あっ…んん、ああっっ」

ナマエは未知の快楽に震えが止まらず腰を反らした。唇は糸を引きながら離れ、拭き取る間もなく、唾液を垂らしながらナマエはエースの肩にしがみついた。

「…挿れてェ」

耳元でエースの言葉が落ちた。答える前に、耳朶に犬歯をたてられ、鋭い痛みと共にビリビリと電流が身体中を走った。
愛撫も十分にしてやれていないのに、薬の効果でこんなにもナマエはぐすぐすだ。本当ならば自分の指でナマエ隅々まで解してやりたかった。悔しくて反吐がでそうだ。しかしエースもまた、目の前で情欲を持て余し、乱れていくナマエをこのまま置いておけるほど余裕はなかったのだ。 
エースはナマエの腰を両手で掴み、そのまま一気に突き押した。十分に潤ったそこは、エースの熱塊を締め付けながらも受け入れる。

「ああぁっ…‼」
「ぐっう、うっっ‼」

その瞬間二人の呻き声が重なった。挿入だけで二人は同時に絶頂へ到達したのだった。

「からだがっ、おかしい」
「はぁっ、はぁっ…何もおかしくねェよ。気持ちよくなりゃいい」

ナマエの中でまたエースの熱塊は硬度をとりもどした。突き上げがすぐ様始まって、奥を叩く。

「はっ、は…んっぅ」

セックスがこんなに気持ちいいものなんて知らなかった。初めては痛いから、覚悟をしておきなさいと言ったのは誰だったか。与えられるものは全て、快楽でしかない。
エースの動きに合わせてナマエも腰を揺すれば、エースは唸り、腰を抱く手に力が加わった。絶頂はすぐにやってきた。目の前で星が飛んでいく。
呼吸を整える暇もなく、エースはナマエを抱えて、その背を床に押し倒した。覆い被さって首筋に噛み付かれ、ナマエは小さく悲鳴をあげた。それだけでまた絶頂への階段を上りそうになり、たまらなく彼の首に手を回した。
エースはナマエの髪を撫でてやる。しかし、腰を打ち続けることはやめない。やめられない。
恐ろしい薬だ。何度果てようと、それでもまだ、と熱を昂らされる。
ナマエの蜜とエースの精は混ざり合って、とてもナマエの胎には収まらない。繋がった場所から溢れ出て、こぽりと床にこぼれ落ちた。

「ナマエっ…」

身体を密着させて、唇を重ねられた。今度はナマエからも舌を絡ませた。やり方なんてわからないけれど、必死に舌を動かず。
エースを楽にしてやりたいなんて気持ちは既になかった。ただただ自分本位で、もっともっと気持ちよくなりたいと快楽を求めてしまう。

「ああっ、畜生っ‼」

エースの叱咤は誰に向けられたものなのか。愛し合うための行為を無理矢理に引き起こされた体は限界で、ぼんやりとした意識の中で彼の声をきく。

「エースっ…」
「っ…ん?なんだっ…?」
「…すき」
「お前っ、何でっ、いま」

熱塊は大きさを増して、ぶるぶると蠕動して射精する。

「うっ…あっ…あ」

頭の中が真っ白になり、ナマエの意識は完全にそこで途切れてしまった。

「…ナマエ?」

動かなくなったナマエに血の気が引いて、エースはその頬を両手で掴んだ。
すうっと息を吸い込んでナマエの胸が膨らんで、意識を手放しただけなのだと安堵する。エースとナマエでは体力の底が違っていた。ようやくナマエの中から抜け出した熱は、まだ彼女を求めて鎮まることを知らない。
けれど、意識のないナマエを好き勝手しようなどとは思わなかった。彼女のおかげで随分と体は楽になった。薬で助長されていたとはいえ、欲のままにナマエを抱いた。しかし、抱いていなければ今ごろ自分は眠るナマエにすら、欲をぶつけていたのかもしれなかった。
体はまだ熱を持て余している。
エースはナマエを腕の中に抱いて、眠るその額に口付けた。そして己の熱に手を這わし、指の腹で先端をなぞる。

「ナマエっ、ぐっ、はっ、ううっ」

目を閉じて脳裏に浮かぶのは、先ほどまで目の前で乱れる彼女の姿であった。
こんな理由で、抱きたくなどなかった。
その時が来たのならば、もっと、大事に抱いてやりたかった。
制御せずに彼女を求めたのは自分だというのに、と自嘲の笑みが出た。
そしてもう何度目かもわからない射精を終えて、エースの熱はようやく終息したのだった。
酷く疲れた。凄まじい眠気に襲われて瞼が重い。そして意識が遠のく前に思い出したのは、やはりナマエの姿だった。



「おはようございます」
「おはよう。ナマエ、玉子焼いてもらえるか?」
「わかった」
いつもの朝が訪れた。エプロンをかけながら、ナマエは隊員たちが朝食作りに励む厨房に合流した。

エースの腕の中でナマエは目覚めた。
目の前にあるエースの顔は穏やかで、規則正しい寝息がきこえ、ホッと息をついた。昨日の記憶は途中から朧げであったが、彼の顔を見ると無事に事なきを得たのだと知る。
今は何時なのだろうか。船の奥の倉庫では、日の光も入らず時間がわからない。
朝食の準備がある。
重たく体に巻きついた太い腕を、慎重に動かして体を起こした。深い眠りについているのか、エースはぴくりとも動かなかった。
ナマエはエースの髪をひと撫でして、ゆっくりと立ち上がった。厨房に行くまでに、できるならシャワーを浴びてベタついた体を流したい。倉庫にあったブランケットを彼に被せて、部屋を出た。

「痛っ」

身体中が筋肉痛になったかのような痛みが走る。これが処女を喪失した痛みなのだろうか。足にも力が入らず、ふわふわとした心地で通路を歩いた。
初体験がこんな形で終わったのかと思うと、急に恥ずかしくなった。
けれどこの部屋を訪れたことに、後悔はなかった。




「おい」
「あっ」

一仕事終えて、甲板で背伸びをするナマエに声をかけたのはエースであった。
雲ひとつない晴天の下で見る彼は、すっきりとした面持ちで、健康な、うっすらと日に焼けた肌をしていた。
いつもならば背中を叩いて挨拶でもするところだが、今日の彼はよそよそしく、ナマエも同じであった。もう少し心づもりをして話をしようと思っていたのに。こう言う時に時間を十分にくれないところも、彼らしい。
話しかけた癖に黙ったままの彼に、気まずくなって口を開いたのはナマエであった。

「…体は大丈夫なの?」
「ああ。もう問題ねェよ。その…昨日は無理させて悪かったな。お前は大丈夫か?」
「あ、うん。特には、大丈夫かな」

腫れ物に触れるように、当たり障りのない会話をして、また沈黙が流れて、居心地が悪い。エースは後頭部に手を回して、らしくなく視線を泳がせる。そして、あーと言い淀みながらナマエに問いかける。

「お前、あれ、本当か?」
「あれって…?」
「嫌、おれのこと…」
「エースの事?」
「……まあ、覚えてねェよな」

盛大にため息を一方的に吐かれても。
ナマエは昨日の全てに身に覚えがありすぎて、エースがどのことを指しているのかわからない。最後のあたりは記憶にないけれど。
三度目の沈黙で流石にいたたまれなくなった。
やっぱりもう少し時間を置いて、昨日の事を思い出してから話をしたほうがいいのかもしれない。そう思い至って顔をあげると、「ナマエ!」と名を呼んで、マルコが駆け寄ってきた。エースとの気まずい空気をやぶる助け舟であった。

「話中悪いが、ちょいとこれは急ぐ要件で、すまねェな」

場を変えた方がいいかと尋ねれば、マルコは「いや、エースがいてくれてもかまわねェよい」と首をふって、二人に見せるように透明の袋を取り出した。

「ナマエ。これ、飲んどけ」
「どっか悪いのか?」
「…別に私は何とも。何の薬ですか?」
「腹の薬だ」
「腹」
「腹ぁ?」
「おう。早く飲まねェと意味がねェからな。すぐ飲んどけよい」
「はぁ」

ナマエが頷くと、マルコは意味深に弧を描いて微笑み、そそくさとその場を離れていった。
袋を太陽に照らして見ると、桃色の一粒の錠剤が入っている。
ナマエは自身の腹に手を当てて考える。
腹の調子は特段悪いことなどない。
腹の薬。腹、ハラ、はら…胎

「「ああっ…‼」」

綺麗に声を重ねて、二人が顔を見合わせたのは同時だった。ナマエはボっと火がついたように顔を赤くして、エースは口をあんぐりと開けて薬を指さしている。
なんていうことだ。全く気が付かなかった。マルコがこの薬を渡したということは、つまり…そういうことなのだ。
ナマエは目眩すらして、両手で顔を覆った。しかしエースは、ゴホンっと咳払いを一つしてその手首を掴んだのだった。

「…昨日のこと、ちゃんと話さねェか?」

指の合間からエースを見れば、彼はもう腹を括ったとばかりに真っ直ぐにナマエを見ていた。
もう逃げられない。とうに、この気持ちを自覚はしていたのだ。
頷けば、私たちの関係は何か変わるのだろうか。
ナマエはこくりと小さく顎を動かして、エース眼差しを受け入れたのだった