ちょこれいと、xxx
「随分機嫌がいいな」
鼻歌を歌いながら階段を登ろうとするナマエをサボは呼び止めた。帽子のつばを持ち上げて見た恋人のナマエはえらく上機嫌で、いまにもスキップしそうだった。出会えた嬉しさ半分、足を踏み外さないでくれよと注意したい気持ち半分で声をかければ、ナマエはピタリと歌をとめて心底嬉しそうにサボを振り返った。ナマエはサボと同じ齢であるが、その嬉々とした笑みは彼女を幾分幼く見せた。
「ふふっ、わかる?実は今日"とっておきのお菓子"が手に入ったの」
「とっておきのお菓子?」
「そう!ベティさんがカカオが有名な島に行っていたでしょ?そこで、これを買ってきてくれたんだ」
ナマエは胸元に抱えた書類の束に視線を運ぶ。同じように視線をやれば、書類の一番上に小さな正方形のマゼンタピンクの箱が置かれていた。上品な金色のリボンが巻かれており、いかにも派手好きなベティが見立てたという感じがする。お菓子と呼ぶには立派な包装で、上等なものであることが見て取れた。カカオの生産が有名であり、菓子といえば中身は大方想像がつく。かつ、ナマエはそれが大好物であるので、彼女の浮かれ具合も合点がいった。
今朝バルティゴに到着したベティと顔を合わせて近況を報告し合ったが、そんな話は一言たりともあがらなかった。もちろん土産などない。ベティはナマエを分かりやすく贔屓して可愛がっていたので、任務の合間に特別に土産を用意したのだろう。
しかしいくらベティといえど、恋人であるナマエをこんなにも愛らしい顔にさせるのは少々妬ける。「嫉妬もほどほどにしなよ」とコアラには飽きれられるが、こればかりは自然に湧いてくるものだから仕方がない。ついつい甘えを含んだ声が出る。
「おれも食べたいな」
ナマエは、サボの提案に一瞬「え?」驚いたような声をあげたが、「いいよ。じゃあ一緒に食べようか」と承諾する。しかし閃いたように「そうだ」と言葉を続けた。
「せっかくこんな良いものを貰ったから、みんなにもお裾分けしようかな」
その言葉にサボは笑みを浮かべたままであるが、内心穏やかではなかった。冗談じゃない。やすやすと二人きりになる機会を失ってなるものか。ナマエは事務方でバルティゴに常駐しているが、サボは参謀総長だ。単独で世界中を飛び交って任務にあたることも多い。一緒に過ごす時間は限られているのである。思わず食い気味で、自分でも笑ってしまうような理由を口走っていた。
「見たところ、あまり量が入っているようには見えないけどな…」
「だからこそ、みんなで味を共有するのも良くないかな?」
ナマエは仲間思いのいい子だ。だが今はその性格が恨めしい。そして彼女は少し鈍感だ。こちらの意図を直接的に言わねば伝わらないことは承知している。
サボはナマエに一歩近づいて肩に手を添えると、その耳元へ唇を寄せた。
「おれは二人きりで食べたいんだが。ダメか?」
彼女が頬を紅潮させて固唾をのんだのを見て、サボは目を細めた。
「どうぞ」
ノックしてしばらくすると「はい」と返事が聞こえナマエは扉を開いた。
すっかり日も沈んだが、サボはまだ職務にあたっているようだった。恋人に会いに来たというのに、参謀総長の自室を訪れるということにナマエの背筋は自然と伸びた。
「失礼いたします」
畏った挨拶で一歩入れば、頬杖をついたままサボは書類から視線を移した。入ってきたのがナマエだとわかると、「ずいぶん固いな」と柔らかく微笑んだ。
(いけない。今は参謀総長の彼ではなかった)
ナマエもその笑みにふっと背中の力が抜けた。今からは恋人としての時間の始まりであった。
サボは上着とトレードマークのシルクハットを机横のコートハンガーにかけて軽装である。首元のアスコットタイも緩んで見えた。
紅茶と例の正方形の箱を乗せたトレイを運ぶと、彼は書類を適当によけてトレイを受け取って机に置いた。そして座ったまま後ろに椅子を少し引き、両手を広げた。
スラリと伸びた長い脚を肩幅ほどに広げて、顎で「どうぞ」と座るように促す。ナマエは「失礼します」とはにかんで、その隙間に収まった。
「…もう仕事はいいの?」
「ああ、大方片付いた所だ」
もう仕事に気をやるつもりは露ほどもないようで、サボは彼女を抱きしめ肩越しに見つめる。ナマエの頬は見つめれば見つめるほど朱を帯びていく。恋人という関係になって、間もなく一年が経つというのに。何時になれば慣れてくれるのかと思いつつ、このままの彼女でいてほしいとも思う。ナマエは赤くなった頬を誤魔化すように、トレイから箱を手にとった。
「さ、早速、開けよっか」
「どうぞ」
金色のリボンをするすると解いていく。宝石箱を開ける時と同じような、ときめきを感じながら、ゆっくりと蓋を持ちあげる。サボが箱に一切視線を向けずに自分の表情を覗っていることに、全く気づきもしない。
「わあっ」
箱の中の菓子を見ると、ナマエはキラキラと瞳を輝かせながら、驚嘆の声を短く上げた。わずか六個のルビー色のハート形のチョコレートが並んで、フランボワーズの香りが鼻孔をくすぐった。たった六個に、なんて豪勢な包装だろうか。しかし値段のことを考えるのは野暮のような気がする。
それよりもサボが気になるのは、ベティがハート型のチョコレートをナマエに渡したことだった。ナマエへの愛情を表現するために選んだのか。方頬をにやりと上げて勝ち誇った様に笑うベティの顔が浮かんで、またじくりと嫉妬心が顔を覗かせた。
「食べてみよっか…?」
喉をゴクリと鳴らして少し緊張を孕んだ声でナマエはサボへ問いかける。サボは無言で頷くと、両手のグローブを外して書類の上に置いた。そしてナマエがチョコレートへ伸ばした指を制止する。自分よりも一回り大きい彼の手に急に指を掴まれたので、ナマエはきょとんと目を丸くした。
「おれが、食べさせる」
へ……?と固まるナマエを他所に、サボはチョコレートを一つ手に取り、ナマエの閉じた唇に寄せた。まだ状況を飲み込めていないナマエは目をぱちくりさせているが、触れるナマエの唇の体温にルビー色のチョコレートはじわりじわりと溶けていく。
「ナマエ。口、開けて」
「…はい」
柔らかな命令にナマエは思わず、唇を少しだけ開いた。その隙間から溶けたチョコレートが流れ込む。濃厚でフルーティーなフランボワーズの酸味が広がり、これだけではむせそうだ。堪らなくなり口を素直に開けばチョコレートが投げ込まれ、ナマエは反射的に咀嚼する。ルビー色の層の内側は甘いガナッシュだ。柔らかいチョコレートはみるみると口の中でフランボワーズの酸味と交わり、絶妙な塩梅で溶けて消えた。
「美味しいっ…!」
「よかったな」
サボは笑みを咲かせるナマエを、微笑ましくみた。恥ずかしがっていたかと思えば、次は目をまん丸とさせて。そして今はチョコレートの美味しさに顔を綻ばせている。
かわいい。ナマエはとってもかわいい。
けれどそれがベティからの贈り物に起因しているかと思うと、やはり気に食わないところがある。「嫉妬もほどほどにしなよ」コアラの言葉を反芻するが、二人の時は許されてもいいのではないか。
ふと指先にベタつきを覚えて見れば、ナマエの唇に溶かされたルビー色がついていた。サボは舌を少し出してそれを舐めとる。
「甘いな…」
低い声でサボは呟く。酸っぱくないの、と尋ねたいのにナマエはその仕草に見とれてしまった。情事の最中の彼と重なったなんて、とても言えやしない。ただチョコレートを拭っただけなのに。私は何を考えているんだろう。顔を伏せて邪まな考えを吹き飛ばす。サボは赤くなったナマエの耳朶に唇を寄せた。
「どうした…?」
「へっ、ああ、何でもないよ」
顔を上げると、サボは「そうか」とあっさりと頷いて箱を手に取り、ナマエの目の前に運ぶ。
「二個目。今度は食べさせてくれないか」
「え?」
「食べさせてくれ」
また、柔らかな命令が下される。
優しい口調なのに、抗えない。
繕う暇も与えられないまま、ナマエの指は自ずとチョコレートをサボの口元へ運んだ。放り込んだチョコレートをサボがひと噛みすると、口の中から香りが漂う。
確かに酸味と甘みが絶妙なバランスで混ざりあい、なるほどナマエが「美味しい!」と声をあげたのも納得する。しかし先ほど舐めた指先のチョコレートの方が甘く感じるのは何故だろうか。ナマエの唇に溶かされたからだろうか。もっと欲しくなってしまう。
ナマエは頬を染めながらも、サボの反応を覗っている。先程の一瞬。舌でチョコレートを拭った一瞬に、彼女が何を考えたのかは予想がつく。たとえそれが自分で故意に撒いた種であったとしても、彼女が意識してくれたのなら。求めてしまう気持ちは止められない。ベティやコアラの引きつる顔が浮かぶが、この欲望の前ではすぐに消えてしまった。
サボはナマエの顎を捕らえると、ナマエの唇を自身のそれで塞いだ。
まだ少しだけ形を保ったチョコレートがサボの舌でナマエの口内に押し込まれる。
チョコレートを纏った舌が、ぬるっと入りナマエの背中は糸でつるされたようにピンと張った。不意の口づけに目をしばたたかせるナマエをみて、ふっとサボは笑う。
固まったナマエの舌はサボの舌に絡めとられ、溶けたチョコレートを共有するようにゆっくりと動いた。甘酸っぱい風味が広がる。ごくりとナマエがそれを飲み込むと、唇は離れた。
「やっぱり、甘いな」
恍惚として言う彼に、恥ずかしさを通り過ぎてもはやナマエは状況を処理しきれていなかった。頭がぼうっと思考を止めているのに、サボは容赦ない。唇の周りにだらしなく付着したチョコレートを啄ばむようなキスでぬぐい取る。
「…三個目、食べるか?」
その問いにナマエは目を剥いて、咄嗟に正面へ顔を向けて頭を振った。ははは、と頭上でサボは笑うが、しばらくは彼の顔を見れそうになかった。逸らした視線の先には、チョコレートがある。錯覚か、チョコレートは食べてもらえる時をいまかいまかと待っているように赤みを濃くしたようにも見える。箱から一つなくなるたびに、私はどうなってしまうのだろうかと考えると、つま先から体が熱くなって疼いてしまう。ただチョコレートを食べるだけだったのに。部屋の空気は口の中の甘さより、じっとりと纏わりつく。
「口、閉じるなよ」
三度目の命令が下されて、サボの腕が視界に現れた。ナマエはただ、ゆるやかに伸びる彼の指を見つめるしかできなかった。
「口、閉じるなよ」
サボは三個目のチョコレートを手に取って、ナマエの口元へ運ぶ。三度目の柔らかな命令に、もうナマエはなす術がなかった。齧ったハート型のチョコレートは音を立てることなく、半分に割れた。ハートが割れるなんて、なんだか寂しい…と思った矢先、サボは残りの半分を自身の口に放り込む。そして、細く、けれど節くれだった指が名前の顎を掬った。
「キス、するからな」
さっきは何も言わずにしたくせに。宣言されると、近づく唇の距離や彼の吐息を意識してしまって、恥ずかしさが増してしまう。
頬を赤くするナマエの顔が見たくて、わざと羞恥心を煽っているなんて、ナマエは露ほども思わない。もうそんなこと、どうだってよかった。目の前のサボの顔を見つめ返すことで必死だった。
唇が重なった。隙間をなくすように、覆うように唇が重なった。サボの温度で溶けたチョコレートが流れ込み、ナマエの中のチョコレートと混ざりあう。もう味なんてわからなかった。息苦しくなり、チョコレートなのか唾液なのかもわからない液体を飲み込めば、一瞬だけ唇が離れる。わずかな合間にナマエは空気を吸い込むが、また唇は塞がれてしまった。舌が滑りこみ、口の中を蹂躙する。口腔内を舐め上げられ、時折歯をなぞられる。背筋に疼きが駆け上がり、頭の中がみるみる真っ白になってくる。ナマエはくったりとサボに背を預けた。
唇を離さないまま、サボの指が顎から離れて、両手はナマエのシャツへと伸びた。ズボンからシャツは引き抜かれ、下から順を追ってボタンが外されていく。反射的にその手を制止すれば、ようやくサボの顔をまともに見れるほどに唇は離れた。
「…だ、だめだよ」
「どうしてだ…?」
「ちょこ、チョコレート食べなきゃ…」
「ああ。ちゃんと食べるよ」
シャツの前が開かれ、火照った体が空気に触れた。キャミソールがズボンから抜き出されて、サボの手が侵入する。ナマエの腰をなぞるように彼の手は這い上がり、ブラジャー越しにナマエの胸に触れた。しかしすぐに煩わしさを感じたのか、片方の手は背中へ周りホックを外す。スルリと抜き取られたブラジャーはチョコレートの横に置かれ、ナマエの羞恥を煽った。
「っ、サボくん」
「ん?」
捲り上げられたキャミソールの中で、サボの指はナマエの乳房を掬いあげるように掴んだ。そして、胸の頂きを捻れられ、ナマエは思わず嬌声をあげた。
「やあぁ…!」
サボはほんのりと頬を紅潮させ、肩越しからナマエの表情を覗きこむ。熱い吐息を吐き出しながら、サボへ視線を運べば再び口は塞がれてしまった。チョコレートの甘さを僅かに含む温かな舌が入り込む。サボの指は、またナマエの胸を揉み上げて、その頂きを掠めたり抓ったりして刺激する。意識をどこへむければいいのか、わからない。絶え間なく与えられる刺激におかしくなってしまいそうだ。くちゅ、くちゅと口の中から音が伝って、時折サボのくぐもった吐息が聞こえてきて、耳まで虐められているようだ。
ナマエは両手を伸ばし、なんとかサボの頬をつかんだ。ちゅぱっと音をたてて離れた唇から、糸が伸びる。サボはそれを舌で舐めとり、昂りを中断されことが不服だったのか眉根を下げて「どうした?」と尋ねた。
「っベット、にっ…行きたいっ…」
掠れた声で、懇願すればサボは少しだけ意表を突かれたように目を開く。そしてナマエの頬に軽くキスを落として目を細める。
「ああ。そうしようか」
まだ袖を通したままのシャツが肩から脱がされて、ブラジャーの上に重ねられた。サボはナマエを椅子から立ち上がらせると、「いこう」と手を引いた。ベッドまでの数メートルが長く感じて、一歩近づくたびに心臓はどくんとうるさく鳴った。その途中で、ナマエはキャミソールに胸の先端がいやらしく浮き上がっていることに気がついた。咄嗟に胸元に腕を回したが、サボはふっと微笑んで、全く気にしていないようだった。
真っ白なシーツに包まれたベッドに到着した。山なりに目覚めたままの形を残した掛け布団を床に落として、サボはナマエを横たえた。シングルベッドは二人並んで寝るには窮屈で、当然のようにサボはナマエの上に膝を立てて跨った。
「四個目だ」
サボは何処に忍ばせていたのかマゼンタピンクの箱を取り出した。ナマエは目をしばたたかせてその箱を見た。
「ゆっくり、味わってくれよ」
四個目のチョコレートが口に放り込まれる。予想していたキスはなく、久々に素直にチョコレートの味を噛み締める。やっぱり美味しい。けれど、このまま終わる予感はせず、一抹の不安は拭えない。
ナマエを見下ろしてサボは満足気に笑うと、ナマエのズボンに手を伸ばす。ジジッとファスナーの降りる音がして、慌てて上半身を起こそうとするが、サボは顔を寄せて邪魔をする。
「美味いか?」
「…うん」
「食べながらで悪いが、腰浮かせてくれないか」
「…うっ、うん」
ズボンとショーツは纏めて簡単に脚から抜かれてしまい、もうナマエが身につけているものはキャミソール一枚だけだった。
サボはアスコットタイを解き、床へ放りなげる。そして自身のシャツのボタンを上から三個だけ開けると、下から捲り上げて一気に脱ぎ捨てた。鍛えられ引き締まった、けれど線の細い体が近づいて、ナマエは思わず目を瞑った。サボは耳元へ唇を寄せて囁きながら、キャミソールの裾を引っ張った。
「これも脱がしていいか?」
「聞かなくて、いいから…」
「それもそうだな」
サボの首元へ腕を回して、背中を僅かに持ち上げるとキャミソールは脱ぎ取られた。もうこれでナマエが身に付ける物は何もない。文字通り一糸纏わない姿になる。
「五個目」
ハートのチョコレートをサボは自身の口に入れて咀嚼する。
次は何をされるだろうかと想像もつかないまま、ナマエは彼を見るしかできない。サボは不安そうな面持ちで見つめるナマエに、優しい眼差しを向けた。
「何されると思ってる?」
「そんなの、わからないよ…っああ」
ナマエの答えを聞いた瞬間、サボはナマエの鎖骨に吸いついた。ジクリと痛みを感じる。
舌は鎖骨を通り過ぎ、胸の谷間へ滑るように動いた。顎を少し下げてサボを見れば、
彼の舌が通った道を示すように、薄いチョコレート色の線が鎖骨から谷間へ伸びていた。
胸の膨らみに顔を埋めるサボは、ナマエの視線に気づいて悪戯に笑みを浮かべ、べっと見せつけるように舌を突き出した。そしてその線を消すように、舌は谷間を通って鎖骨へと戻る。ナマエは自分がお菓子になってしまったかのような錯覚を覚えた。ナマエの下腹部は疼く。しかしその矢先、舌は再び胸元へ戻り、頂を口に含んだ。
「やっ…んんん」
与えられる刺激に、声が漏れてしまう。敏感に立ち上がった頂は、彼の舌で押しつぶされ、吸いつかれる。空いたもう片方の胸は、指で転がされ弄ばれる。腰を動かして逃げようとしても、サボは体重をかけて許してくれない。
「ナマエ」
名前を呼ばれて視線を向ければ、またキスが振ってきた。少しだけ舌を絡めながら、唇は角度を変えて何度も重なる。
そして口づけを続けながら、サボの指はナマエの腹を滑り下り、いよいよ秘所へと伸びた。
もうすでに、キスと愛撫で散々にそこはぬるついていた。蜜を纏わせて、サボの指がナマエの秘所を探るように進む。
「…ああっ…あ…あ…」
指がゆっくりと差し込まれ、刺激が走る。何かに縋りたくなって、サボの首に手を回せば、重なる彼の唇が弧を描いたような気がした。サボは指を更に奥へと差し入れ、ゆっくりと内部をなでる。
「くっ……んん…んあ」
恥ずかしいと気持ちいいが同時に押し寄せる。声が溢れるのに、キスはそれすらまともにさせてくれない。唇が離れる僅かな瞬間だけ、くぐもった声が漏れる。サボは襞の中で長い指を折り曲げて的確にナマエの気持ちいいところを突く。執拗なまでにその一点を攻められて、足の指がきゅっと丸まった。とろり、とろりと蜜が溢れ出て太ももをつたった。絶頂は近かった。いつの間にか指は二本になり、中を掻きまわす。
「さ、サボっく、んっっ…ん」
「どうした?」
「いっ…いっちゃいそ、うっっ…」
ナマエの絞り出した声に、サボは固唾を飲んだ。はっ、と思わず乾いた笑いが出る。ナマエを飛ばせてやりたい。その姿をみたい。サボが親指で花芽に触れると、ビクッとナマエの中が反応した。ナマエは甘い声をもらし、身体を跳ね上がらせて一気に絶頂へと駆け上がった。次の瞬間、意識が飛んで、目の前が真っ白になる。ナマエが達すると同時に、塞がれた唇は離れた。
ビクビクと腰を痙攣させて、ナマエは息を何とか吸おうと喘ぐ。
かちゃかちゃと金属音が鳴るのを、ぼうっとした意識の中で聞いていた。
「ナマエ」
先ほどよりも甘さを含んだ声で名前を呼ばれる。視線を下げれば、サボがナマエの脚を大きく広げ身体を進めた。秘所に反り上がった昂りが押し付けられる。未だ力が入らずに、ぐったりとしたナマエの腕をサボは自身の首へ回す。蜜を纏わせながらがぬるぬると昂りが擦り付けられた。力は出ないのに、十分に指と愛撫で解されたそこはサボを受け入れようとひくついた。そして、ナマエが酸素を吸おうと大きく胸を膨らませた瞬間、熱を帯びた先端部が押し込まれた。
「あっ、ああ」
押し寄せる快感にナマエは反射的にサボの首を引き寄せた。サボはナマエの腰を掴み、一気に最奥まで貫いていく。ナマエは短い呼吸を繰り返しながら、サボの身体を最後まで受け入れた。
サボは隙間もないほどに身体を密着させて、ナマエの唇にキスを落とした。今までで一番ゆっくりとしたキスであった。じっとりとした熱を帯びた眼差しを向けられる。しっとりと汗ばんでサボの前髪は少し湿っぽい。情欲で溢れた吐息がかかり、彼の身体全てが訴えているようだった。ナマエが欲しい、と。
ナマエが小さく頷けば、それが合図だったかのようにゆっくりとサボは動き出す。身体を揺すられ、奥を突かれる。その度にナマエの口からは甘い吐息が漏れる。キュッと、首に回す手に力を込めれば、サボは耳に舌を這わせて囁いた。「起こすぞ」そのたった四文字の音さえ官能的に響いた。
身体を引き起こされ、サボの太ももの上に座る体勢になる。角度を変えて、真っ直ぐに、深くナマエの一番感じる所を突き上げる。
ナマエの中はびくびくと震え、サボを逃すまいと絡み付いた。
サボの肩に鼻先を押し付ければ、背中を彼の手のひらが撫でた。
耳朶を食まれ、くすぐったい刺激に身をよじれば、下から突き上げが始まった。彼の胸板に押しつけられた胸は突き上げられる度に、素直に形を変える。
はっ、はっと突かれるたびに犬のように短く息を吐き出す。徐々に突き上げる速度は上がり激しさをます。振り落とされないよう、必死にしがみつけば「はは」とサボは嬉しそうに声をあげた。相変わらず余裕だなと、少し悔しくナマエはサボの顔を朦朧とした視界でみた。満足気に口角を上げながら、しかし時折淀みなく押し寄せる快楽にサボの口からもくぐもった甘い声が漏れた。
可愛いと思って見つめてしまうと、「何、考えてるんだ?」と問われて、答える前に唇を塞がれてしまう。合わさった唇は振動で離れながらも、磁石のようにまた引き合っては重なるを繰り返す。
「も、ダメかも…しれない…っ!!」
「もうちょっとだけ…頑張ってくれっ……」
サボは腰を揺らして、何度もナマエの急所を突きあげる。揺さぶられた身体は快楽を追い求めて、さらに、さらにサボの昂りを締め付けた。
「くっ…」
苦しげにサボが呻いた。ナマエはもう快楽に飲まれしまって、彼の声に気づくことはなかった。
「あっ、ああっ………んん」
一際強く奥を叩かれ、ナマエは絶頂を迎えた。ビリビリと電流が流れるように膣が震えた。ナマエは脱力してサボに身体を預けた。けれどサボは腰の動きを止めない。繋ぎ目から蜜が溢れ、水音を響かせる。襞は先ほどよりも、強くねっとりとサボに絡みつき、彼の全てを搾り取ろうとする。
ナマエの中で昂りは質量を増す。そしてぶるっと振動をともなってサボは精を吐き出したのだった。
肩を上下しながら、はあはあと互いに荒い呼吸を繰り返し、サボは力なく体重を預けるナマエの髪を撫でた。そしてナマエを抱きしめたまま、後ろ向きでシーツへ倒れ込み、ふーっと長い息を吐き出した。
「六個目、食べるか?」
ナマエがサボの肩に頬をくっつけたまま視線を動かすと、彼の指はマゼンタピンクの箱を指していた。二人の振動で動いてしまったのか、ベッドの端に追いやられた箱は居心地悪そうに見えた。もう途中から必死で、すっかりチョコレートの存在を忘れてしまっていたのだった。
今日はそもそもチョコレートを食べるだけの予定だったのに、と今更になって思い出す。サボはナマエが上から落ちないように体を傾けて、腕を伸ばして箱を手に取った。
「どうする?後にするか?」
「食べるよ」
ナマエはすぐに返事をして、力を振り絞ってサボの胸板に手をつき、身体を起こした。まだ二人は繋がったままだ。動くたびに水音が中から聞こえたが、ナマエは恥じらいを堪えた。そして箱から最後のチョコレートを取ると、サボを見下ろした。初めて主導権を取ったような優越感が僅かに顔を覗かせた。これはせめてものナマエの反撃だった。
「サボくん、口、開けて」
頬を真っ赤に染めながら、ナマエはサボを睨みつける。と言っても、凄みを全く感じない睨みは、サボにとっては小動物が頬を膨らませているようなものだった。
「ああ…」
サボが口を開くと、ナマエはその隙間にチョコレートを噛ませた。そして、サボがそれを口の中に入れたのを確認すると、すぐさま自身の唇を重ねた。
小さな舌がぬるっと滑り込んでぎこちなく、不安気に動いた。これであってる?と問いかけるように、探り探りに時間をかけてサボの口内を動く。
ああ、このチョコレートが一番甘いな、とサボは感じた。
サボはナマエの後頭部に手を添える。そして、彼女が納得するまで甘美なキスを甘んじて受け入れるのだった。