花冠を、君に。

※オリジナルの少女が出てきます

オーズが羨ましかった。
私はエースから何かをもらったことなんてなかったから、嫉妬してしまったのだ。
巨人族で太陽に近い彼を思って、エースが彼のためだけに作った笠。手作りで、この世界に一つしかない、彼の優しさから生まれた笠はひどく特別な物のように思えた。

「お前も頼んでエースに作ってもらえばいいじゃねェか」

羨ましい…と皿洗い中に思わず吐露した想いに、サッチ隊長は明け透けなく言ったけれどそういう問題ではないのである。自分から強請って貰っては意味がないのだ。
全く女心がわかっていませんね。だから隊長はモテないんです。と言葉を飲み込んで、はァと息を吐くと「お前今失礼なことを想像しただろ」と隊長はむうっと眉根を寄せた。
ご名答です。



「おねーちゃん!」
「えっ?」
「手が止まっているよ‼」

快活で良く耳に響く声に呼ばれて、私はハっと我に返った。私をおねーちゃんと呼んだのはまだ十にも満たない島の少女であった。名前はセレーナという。

「はい、どうぞ」
「ありがとう」

セレーナは一輪の白い花を私に差し出して、ここに巻きつけるんだよと手元の花冠を指さした。正確には花冠になる前の花の束である。彼女は私の花冠作りの先生であった。

白ひげ海賊団は三日前に彼女が住む島に上陸し、ログがたまるまでの五日間をこの島で過ごすこととなった。小さな島の島民たちは海賊に友好的で、クルーたちは皆思い思いに羽を伸ばして時間を過ごしている。島にはセレーナたちが住む集落のほかに、数か所同じように小規模な集落がある。私たちを出迎えてくれたのがセレーナが属する集落の島民たちであり、私たちは彼らのお世話になっているのだ。
島はなだらかな丘がいくつも重なりあうように形成されている。そして驚いたことにこの島は白≠ゥった。
島をモビーの物見台から発見したときは、雪で覆われているのかと見間違えたほどだ。冬島かと思ったが、気候はおだやかで長袖の薄手のシャツで十分に快適。おかしいな…と双眼鏡を借りてよくよく見てみれば、それは白い花の群であった。この島は、島のあちらこちらに白い花が咲き乱れる、なんとも変わった島だったのである。
セレーナによれば花は一年を通して枯れては咲きを繰り返すようで、島民にとっては身近な存在なのだという。花を摘んで飾ったり、お茶に浮かべたり。茎はスープや炒め物料理にも使われるようだ。そして時には子どもの遊び道具にもなる。
セレーナの母に四番隊の料理人として、花の調理法を学んでいた私に、セレーナはえらく懐いてくれた。そして彼女の遊び相手に大抜擢された私は、不思議な花の絨毯の上でせっせと花冠を編んでいるのである。

彼女からみれば大人≠ナある私に教えることがよっぽど嬉しいのか、セレーナは意気揚々と張り切っている。その姿を微笑ましく眺めながら、今日は彼女のよい生徒であろうと思った。
芯になる花を一本決めて、別の花の茎をクロスしてぐるっと巻きつける。後はその横に同じように茎を巻きつけて芯を増やして、花冠の長さになるまで繰り返していく。
海賊になる以前に故郷で同じようなことをして遊んだような気もするが、ずいぶんと前のことなので忘れてしまった。私の花冠は花の向きがバラバラでお世辞にも綺麗とは到底言えないが、セレーナは「いい感じ!おねーちゃんその調子!」と褒めてくれる。
いい先生だなと感心していると、太陽の光を遮るように影が私と彼女の上に伸びた。

「セレーナ、おれにも教えてくれよ」

エースであった。
なんで?と反射的に口走りそうになったが、「いいよ」とセレーナが一つ返事をしたので押し黙る。エースは胡座をかいて私と彼女の間に座ったのだった。
セレーナは生徒が二人になったものだから、より一層張り切っている。前かがみに身をのりだして、私に見せてくれたようにエースに花を編んでみせた。
セレーナはエースにもよく懐いていて、昨夜は肩車をしてもらって大はしゃぎしていた。それにしても、よっぽどエースも暇を持て余しているのか。花冠作りに参加してくるなんて露にも思っていなかったので驚きである。
エースはほうほう、なるほどな〜と頷いて彼女から花を受け取ると、早速見様見真似で編み始めた。
屈強で精悍な男が白い可憐な花を編んでいる姿は何とも不釣り合いである。しかし笠を編んでいた時にも思ったが、エースは大雑把そうな見た目に反して意外に手先が器用なのだ。要領よく花を編み込んでいき、ぼーっとその様子を眺めていたら、優に私のものよりも綺麗な束が出来上がっていた。

「おにーちゃん上手!」
「へへっ、そうだろ?昔同じような編み方を教わったことがあるからな。それに比べれば、これは随分簡単だったぜ」

言わずもがな、ワノ国で教わった笠のことだ。オーズにあげた笠のことが頭をよぎった。きっとオーズは今もあの笠を大切にしているに違いない。いいな、オーズは…。
なんてまた羨ましく思い出している間にもエースは手を止めずに編み続け、花冠にするには十分な長さをあっという間に編み終えていた。

「あっ、おねーちゃん、また手が止まってる」
「えっ?ああ、ごめんごめん」

セレーナにまた注意されて弾かれたように顔をあげれば、エースがこちらを見ていた。
心の中を覗かれたように感じて、気まずくなる。
そんなことエースにできるわけないのに馬鹿みたい。
気まずさを隠すために、作成途中の花冠を胸元へ寄せるとプッとエースは笑った。

「下手くそだな」
「なっ!見ないでよ」
「見えちまった物は仕方ねェよ」
「〜!私のはいいから、自分の花冠に集中しなよ!ほら、もうすぐ完成なんじゃない!?」
「おう、そうだった。先生、これはどうやって輪っかにすればいいんだ?」
「えっとね、最後はね…」

可愛くない反応をしてしまったと後悔しても遅い。私がエースに贈り物を貰うことなんて、この先あるのだろうかとすら思えてきた。

「こうか?」
「そうそう!上手!」

なんて二人の声を聞きながら、花を編むことに意識をもっていくが手は進まなかった。そして、

「わあ!完成!とっても綺麗だね」

とセレーナが嬉々とした可愛らしい声をあげた。彼女はまん丸の大きな目をキラキラと輝かせている。
そんなに上手いの?と視線をエースに巡らせると、彼は「よっ」と立ち上がってしまう。そしてそれを追うように顔をあげようとすると、頭にポスっと軽い衝撃が落ちて私は俯いてしまったのであった。

「やるよ」
「…え?」
「結構似合ってるじゃねェか」
「何が…?」
「後で鏡でも見てみろよ」

エースはそれきり何も言わずに踵を返して、集落の方へ帰っていってしまった。
え?うそ?まさか。
頭に指を伸ばすと、しっとりとした柔らかい花びらに触れた。慌てて指を下ろせば「よかったね!おねーちゃん‼」とセレーナが私の心を代弁するかのように叫び声をあげた。
セレーナのように叫びたいのに、不意に訪れた喜びに思考も心もぐちゃぐちゃになる。「お母さんにも見せてあげよう‼」とセレーナは鼻息荒く、やけに興奮して、呆けた私の手を引いたのだった。


「おかあーさん‼」
住居の入り口でセレーナが叫ぶ。ぱたぱたと足音をたててやってきたセレーナの母親は花冠をした私をみて、セレーナと同じまん丸の瞳をさらに大きく見開いた。年甲斐もなく、大の大人が花冠をして子どもに手を引かれて現れたのだ。急に恥ずかしくなって視線を泳がせるが、セレーナの母親は「まあ素敵!」と両の手のひらを頬の横で重ねて大げさなぐらいに声をあげたのだった。

「花嫁さんの花冠ね」
「えっ?」
「この島では花婿がこの花で花冠を作って、花嫁に渡す習慣があるのよ。一年中咲く不思議な花でしょ?二人の仲が永久に続くように願いをこめて贈るのよ」
「へェ…そうなんですか」
「昨夜隊長さんたちに、そのお話をしたんだけど聞いていないかしら?」
「初耳です。…素敵な習慣ですね」
「コックの隊長さんと、お医者さんの隊長さんがいるでしょう?それに帽子を被った隊長さんもいたわね。お名前はたしか…」

私は違和感なく上手く相槌を打てているだろうか。
母親は誰だったかしらと、顎に手をあてて考え混んでいるが、私は頬がじわっと熱を帯びて、自惚れで口元が緩んでしまう。
帽子を被った隊長なんて、ビスタ隊長だって、ブラメンコ隊長だって、クリエル隊長だっているのだ。こんな都合よく。けれど期待してしまう。

「おーい、エース!」

母親が隊長の名前を思い出すより先に、背後で誰かが彼の名を呼んだ。反射的に後ろを振り返れば、クルーが彼のもとへ駆け寄って何やら話こんでいるようだ。
ねえ、昨日、母親から話を聞いたのは貴方なの。
この花冠はどういうつもりで私に渡したの。
問いかけたくてたまらなくて視線を送り続けると、エースは帽子の鍔を持ち上げて、ゆっくりとこちらをみた。そして小揺るぎもせずに、ニカッと口一杯に白い歯を見せて、大好きな笑顔を見せたのだった。