02
故郷を出たばかりのマルコはよく研いだナイフのようで、仲間なんか、とその時はその能力を活かし、一人、空の旅を楽しんでいた。
ふと見下ろした島の上空で、彼は見てしまった。
森を越えた先の丘に1本だけ立つ立派な木のそばで眠る女の姿を。
その島は無人島で他に人もいないし、単なる好奇心で、マルコは羽休めも兼ねて降りてみようと下降して女のそばに降り立った。
近付いても起きる気配を見せずに眠り続ける女はまるで死んでいるような気がするほど微動だにしなかった。
月明かりの下で尚のこと白く見える肌に、薄紅色の髪が風で揺れている。
女が着ている服も相まって、普段目にすることのない幻想的な雰囲気によるものだろうと。それでも柄にもなく、綺麗だと思った。
強く吹き始めた風に、一瞬寒さを覚えたマルコはそろそろ発つかと腕を変化させる。
女はこの島で生きていけるだろうし、ましてや通りすがりの自分が助ける義理もない、と女に背を向け、羽を広げた。
その時。
「ーーーー不死鳥マルコ」
凛と響く声音に振り返ると女は深紅の瞳を真っ直ぐとこちらに向け微笑んでいた。
「……俺を知ってんのかい」
「えぇ。貴方を待っていたから」
「待っていた?」
「満月の夜、桜の木の下で貴方に逢うと」
女は腕を真上に上げ背後に立つ木を指さした。
「私の名前はサクラ。貴方の命、貰いに来ました」
女は殺意なんてものとは程遠い笑顔でさらりと言うとマルコの方へ1歩ずつ近づいていく。
「お前ェさんみてぇな女に俺の命獲れると思ってンのかい?」
マルコの怒気を含んだ言葉にきょとんと目を丸くしたサクラという女は一瞬口を噤むと、ふっと笑い、足を止めた。
「いいよ。今はその命取らないでいてあげる」
「は、そりゃありがてェこった」
馬鹿にしたように笑って言うマルコを気にする風もなくサクラはまた口元に綺麗な笑みを浮かべて言う。
「知ってる?桜は、人の命を吸って咲くんだよ」
「は?何を言って、」
「いつかきっとまた逢いに行くよ。だから忘れないでね。その時はきっとーーー」
サクラが言い終わると同時に強い風が吹き荒ぶ。
その強さに思わず目を閉じてしまったマルコが、風が止んで女がいたところへ目を遣るとそこには1本の桜の木が立っているだけだった。