03




「ーーーそれだけ?」

モビーの甲板で酒瓶ごと呷るサッチは拍子抜けしたように言うとつまみを口に放り投げた。

「それだけだよい。それ以来サクラと逢うことは無かった」
「マルコにそんな事言うなんてとんでもねぇ女だな。でもなんでまたいきなりその女の夢なんか見たんだ?」
「それはわからねェが……多分、そろそろなんじゃねぇかと思ってんだよい」
「そろそろって……命貰いに来ましたってやつか?お前そんなもん信じてんのかよ?」
「そうじゃねぇが……信じてるというより来そうな気がすんだよい」
「そのサクラって女がか?此処に?」
「あぁ。あいつに逢った夜もこんな風に澄んだ夜空だったからな……」

それに、今日は満月だ。とマルコはつぶやくように言うと残り少ない酒を飲み干し、後片付けをサッチに押し付けて船内へ戻った。

ひとり残されたサッチは初めて見るマルコの様子にただ戸惑いを隠せず視線をさ迷わせた後、空に浮かぶ月を見上げた。











「サクラ……か」

いつかまた会いに行く、とまっすぐ自分を見て言ったあの鴇色の大きな瞳が忘れられなかった。

窓の外を眺め、夜空に空いた穴のように明るい月を見上げて出逢った女を思う。

実を食べた時に覚悟は決めたはずだった。
不死鳥として、死ぬことはなくなった自分が死ぬ唯一の方法なんじゃないかと。

月に焦がれるよう魚のように、マルコの瞳は渇求を宿していた。