02
しんしんと降り積もる雪を、ぎゅっぎゅっと踏みしめて歩く白ひげ海賊団の隊長二人。
一人は黒のロングコート、一人は着物にとんびコートを纏っている。
一番隊マルコと十六番隊イゾウ。この普段あまりみかけない組み合わせに上陸していたクルー達も一瞬驚いた後、二人に挨拶をして去っていく。
そんなやり取りを繰り返すこと数回、ようやくイゾウ目当ての和菓子専門店を発見したらしく、足を止め入店する。
「いらっしゃいませ」
落ち着いた内装の店内ではイゾウと同じように和服を着た女性がお辞儀をして二人を迎えた。
「女将、オススメとあとこれとこれと……」
ショーケースに並べられた色とりどりの和菓子を躊躇なく選んでいくイゾウを視界の端に捉えながらマルコは店の外の景色を眺めていた。
街ゆく人々はみな寒そうに身を縮めて雪の中を歩いていた。
「マルコ」
「終わったのかい」
「あァ。いいもんが手に入った」
「そりゃよかったよぃ」
つ、と横に目をずらせば山ほどある包み。
「…………これ全部かい?」
「あァ。ちぃと多くなっちまったがな」
「これで少しって……」
「まァマルコ、お前なら大丈夫だろ?」
「……………………よい」
これを持つのか……とげんなりするマルコとは反対にニコニコと嬉しそうに笑うイゾウ。
先ほどのいいもんが手に入ったという言葉に嘘はないらしく、イゾウは別で包んでもらった小さな袋を開けて一粒つまみ出す。
白いその手に転がっているのは青い金平糖だった。
「ほら、まずはこれで糖分でも摂りな」
「………よい」
マルコの口に投げ込まれたそれをポリポリと噛み砕く。ほんのりと甘い金平糖にイゾウに無理矢理連れ出された心の痛みがほんの少しほぐれたような気がした。
「さ、次の店行くかねェ」
「次?!まだ買うのかよい!?」
「当たり前じゃないか。和菓子ってのは奥が深いんだ。他の店との食べ比べをしねェでどうする」
何言ってんだお前、みたいな顔をされた上に、マルコが抱えている荷物もかなり多いのに食べ比べするとなると恐らく同等の量を必要とするだろう。
それらを自分一人で?無理無理。
と若干遠い目をし始めたマルコに気付くことなく上機嫌で足を進めるイゾウ。
と、その時だった。
前を歩くイゾウと女がぶつかった。
ふわりと香る微かな匂い。
肩で揃えられた薄紅色の髪。
イゾウが着ている和服と同じような装いをした女。
それは、かつて無人島で出会ったあの女だった。
「ごめんなさい!」
「いや、こっちこそすまねェな。怪我は無いかい?」
「はい、大丈夫です」
「お前さん、ワノクニ出身かい?」
「そうですよ」
イゾウは思わぬところで同じ国の出と出会えて嬉しかったのか珍しく口元には普通の笑が浮かんでいた。
どくん、と心臓が跳ねる。
この前の予感が当たるなんて。
「いや、なかなか同じ国の出に出会えねェからな。アンタ、名前はなんてんだい?」
内心、女の名前がサクラではないことを祈るマルコ。
たかが女に何故そんなに必死になるのか自分でもわからなかったが、それでも願わずにはいられなかった。
そんなマルコの願い虚しく女は名乗る。
「サクラと申します」
嗚呼、やっぱり。
あの予感は正しかったのだ。
青ざめているマルコにまたも気付かずイゾウは女、サクラと談笑を始める。
「良い名だな。お前さんにゃぴったしの名だ」
上から下まで見定めるように見たイゾウは本心からその言葉を口にした。
薄紅色の髪は勿論、瞳は濃い紅色。
着物はハラハラと今にも動き出して散りそうな桜の花が描かれていた。
「俺ァ、イゾウってんだ」
「イゾウさんとお呼びしても?」
「あァ、構わねェさ。で、後ろのこいつはマルコってンだ」
「はい。存じ上げております」
「おや、知り合いだったのかい?」
ふい、と振り返ったイゾウは目を丸くした。
あのマルコが。
冷静沈着、頭脳明晰、いつだって全体を見渡しクルーに指示をする長男坊が。
サクラを見て顔を青くしているのだ。
不死鳥になったマルコの色と同じくらい青いのでは、と思うほどだ。
しかも狼狽しては顔を歪めて、なんとか感情を隠そうとしている。
「お久しぶりです、マルコさん」
久しぶりに相対したその鴇色はあの日と変わりなく爛々と輝き、むしろその美しさは増していた。
凛と紡がれる声音にマルコはびくりと肩を跳ねさせるとふい、と顔を背ける。
「サクラ、お前一体……」
「昔に一度だけ会ったことがあるんです」
「…………」
「今にも飛んで逃げてェって顔してるぜ」
「突然でごめんなさい。でも、」
サクラの言葉を待たずにマルコは体を変化させ、空へ飛び上がる。
ゆらゆら揺らめく不死鳥の羽は数枚地面に落ちるとすぐにその姿は見えなくなった。